北野久美子さん

Kitano Kumiko

#28

第28回目は、5期修了生の北野久美子さんです。広告代理店でコミュニケーション戦略に携わった後、現在はオーストラリア・メルボルンを拠点に、環境金融アクティビスト「Market Forces(マーケット・フォース)」にて活動しています。金融の力から気候変動対策を進める北野さんに、講座との出会いから現在の活動、そして国境を越えて見えてきた社会の構造の違いについて伺いました。

北野久美子さんさんの写真

profile プロフィール

  • こんな活動をしています

    オーストラリア・メルボルン在住。大阪府出身。 新卒で広告代理店に入社し、デジタルプランナー、新卒採用業務、マーケティングと一貫して企業のコミュニケーション戦略に従事。2019年にエシカル・コンシェルジュ講座を受講後、メルボルンへ大学院留学し、文化創造産業を専攻。インターン先では先住民族の文化遺産や慣習を社会課題解決に活かす手法を学ぶ。現在は、国際環境NGO「Market Forces」にて、世の中の「お金の流れ」を変えることで気候変動に歯止めをかける活動に注力している。

  • おすすめのエシカル

    【金融】

    ダイベストメント(投融資撤退):環境や人権問題につながる事業への投融資を続ける金融機関から、自分の資産を引き上げることです。私は、知らないうちに自分のお金が環境破壊に使われてしまうことに違和感を覚え、給与口座と年金の積立先を見直しました。行動に移したことで、気持ちが少し晴れやかになったのを覚えています。金融機関が発行する報告書で社会課題へどうアプローチしているかを確認したり、非営利団体が公開している銀行比較表(日本だとクールバンク、Fair Finance Guide Japanなど)を参考にしたりするのもおすすめです。

    【コミュニケーション】

    仲間作り:環境課題に取り組む女性を支える非営利団体「Women’s Environment Leadership Australia (WELA)」のNational Leadership Program 2025に参加し、多様なバックグラウンドを持つ仲間と出会いました。豪州連邦政府や民間企業、非営利セクターなどさまざまな分野で働く約30名ほどのメンバーで構成され、プログラムを通して自分の行動が社会変革のどこに位置しているのかを俯瞰的に考えるきっかけになりました。エシカル・コンシェルジュ講座を受けて良かった点にもつながりますが、業界や立場を超えて、価値観を共有できる仲間とつながることは、長期的に大きな力になると感じています。

コミュニケーションから変えるお金の流れ

私は広告代理店で約7年間、デジタルコミュニケーションや人事の新卒対応、マーケティングなどいろいろな部署でコミュニケーションにまつわる仕事に携わった後、オーストラリア・メルボルンの大学院で文化創造産業の修士課程を修了しました。エンターテインメントや文化の力を使って、社会課題をどう解決できるのか、社会起業家の事例を中心に研究していました。

その後、環境金融アクティビスト「Market Forces」に転職を決め、現在はオーストラリアを拠点に活動しています。Market Forcesは、世の中のお金の流れに注目して気候変動の最大要因である化石燃料産業に対し、金融の側面からアプローチする団体です。石炭・石油・液化天然ガスといった分野への資金提供を見直すよう、金融機関や投資家、年金基金に働きかけています。定期的な対話・エンゲージメントに加えて、株主提案という手法も取っております。(提案内容などはこちらでご確認いただけます)

私はコミュニケーション領域をリードする立場として、キャンペーン全体の戦略をメディア、広告、SNS、Web、メールなどを活用してどう届けるかを設計しています。具体的には、どんな言葉や接点なら届けたい人に伝わるかを考えたり、どんなメディアやステークホルダーと組めば社会を動かせるのかを考えたりしながら、常に試行錯誤を重ねています。

世の中が変わっていく中で、その時々の流れを読み取って、どう言葉を変えながら伝えていくかは、容易ではありませんが、いろいろな人と協力し合い、学ばせてもらいながら少しずつ進んでいると感じます。また、この仕事を通して業界を超えて同じ思いを持つ人もたくさんいることを知ることができました。

年々、日本を含むアジア地域へのアプローチも強化していて、私はオーストラリア外のチームに所属し、日本やアジアにいるチームと連携しながら、日本の金融機関や投資家、化石燃料事業者にアプローチをしています。昨年は、東京の下北沢で、バングラデッシュの著名な写真家に来日して頂き、アート展「海と煙が出会う場所 ~交差する暮らしと開発 ~」を開催しました。

展示した写真は、日本政府が支援してできた石炭火力発電所の影響により、仕事ができなくなったり、生活が変わってしまったりしたバングラデシュの人々の様子を記録したものです。これらを日本の人たちに見てもらうことで、日本の公的資金の使われ方や日本企業の化石燃料事業拡張への関与について考えてもらい、今後、石炭やガス火力発電事業への投資を続けるのではなく、クリーンで持続可能なエネルギーに変えていく働きかけを行いました。

アート展の様子

社会にとって良いものにつながる歯車になりたい

広告業界に入ったきっかけは、人の気持ちをワクワクさせることや、キラキラした雑誌の世界、ファッションが好きだったからです。でも、ファストファッションや、児童労働、ラナ・プラザの崩落事故など、興味のある分野の裏側の世界を徐々に知るようになり、儲かっている産業の裏側に少しずつ目を向けるようになりました。

ファストファッションの課題を自分なりに情報収集すると、環境問題や人権問題などいろいろな社会問題が絡んでいることが分かり、当時、広告会社で働きながら、自分の仕事はどういうことにつながっているのか、目の前の仕事は社会を良くする方向につながっているのか、疑問を持つようになりました。

エシカル・コンシェルジュ講座を知ったのはちょうどその頃です。モデルの長谷川潤さんのポッドキャストがきっかけで、さまざまな分野を網羅的に学べる点に魅力を感じ受講しました。

講座はどの回も初めて知ることばかりで驚きの連続でしたが、末吉竹二郎さん(国連環境計画 金融イニシアティブ 特別顧問)の「SDGsとパリ協定が動かす21世紀」の回と、佐藤潤一さん(当時 パタゴニア日本支社 環境・社会部門シニアディレクター)の「パタゴニアのビジネス 気候変動を緩和するためにできること」の回が特に印象に残っています。

エシカルな社会は、個人の消費行動を変えて、消費者側から変えていく印象がありましたが、この二つの講座から、学術的なデータを元に企業や金融機関などのビジネス側からできることもあると教えていただきました。世界的な大きな枠組み(SDGsやパリ協定)がある中での現在地や全体像を知れたことで、いろいろなやり方があって、さまざまな角度からのアプローチが必要なのだと学べました。

講座全体を通しては、毎回学びながら仲間ができていって、情報交換をし合ったり、既に行動を起こしている人がいて刺激を受けたり、このようなコミュニティがあることも印象的でした。

そうして、自分のコミュニケーションプランナーという仕事が「社会にとって良いものにつながる歯車になりたい」や、「環境問題につながるような問題をはらむ方に行かないようにしたい」という思いが徐々に生まれていきました。

5期の修了書とともに末吉里花さんと

構造的に進んでいると感じるオーストラリア

講座をきっかけに、日本だけでなく海外の取り組みにも目を向けるようになりました。その後、いろいろな国へ実際に行ってみて実感したことは、どの国にも課題と前進の両面があり、進めようとしている人々と関心がない人々がいて、進み具合の違いはあっても、「正解は一つではない」ということです。

でも、オーストラリアに来てから、環境意識の高さは日々感じています。例えば、自然が近くにあって日常的に海や山に行くこと。政治と市民の距離が近くて、声を挙げたら社会を変えられると思っている人が多いこと。気候変動に関するニュースを毎日目にすること。

化石燃料資金に関与しない銀行が既にたくさんあり、環境に負荷をかけたくない人の選択肢が日本よりも揃っていること。同じ家庭で育っても、子供によって価値観はそれぞれ違うように、お互いの価値観を尊重し合う環境があることなど。いろいろな要素がありますが、社会を変えたいという人たちの意見が反映されやすい環境が整っていて構造的に進んでいると思います。

日本人は「もったいない精神」を元々持っていたり、非常に真面目で、全体的に教養レベルや環境に対する意識も高かったり、意識の面では日本が遅れているとは思いません。でも、エネルギーや金融などは大企業の支配的な構造になっていて、一部の人の意見のみで決められてしまう、もしくはそれを容認してしまっている社会がずっと続いていると感じます。

日本には慎ましさという美徳でもある文化があるからこそ、都合の悪い真実を言うことが難しい側面もあると感じていて、ムーブメントや市民活動に対する社会の許容度が全体的に低いと思います。

ソーラーシェアリングなど再エネの地産地消が増えてきていると聞きますが、導入比率やスピード感が他の国よりも遅いのは、意識がアップデートされていない人たちに決定権があって、気候変動によって被害を被る市民の意見が反映されていないという社会の構造的に大きな壁があるのかもしれません。

オーストラリアと日本を比較したときに、一つ大きな違いだと思うのは、選挙がオーストラリアは義務なので、投票しなかったらペナルティがあることです。投票権を持ったら確実に政治や社会について考えなくてはいけない機会があります。

これだけが正解ではないですが、もう少し国民が政治に興味や希望を持てる仕組み作りや、市民の意思表明を尊重するような社会に変わっていく必要があるのかなと思います。

週末よくサーフィンをしにいくOcean Grove Beach

気候変動対策をすることが多くの課題解決につながる

昨今、世界には気候変動対策を進めている企業や金融機関がたくさんありますが、私たちが民間企業と直接対話する中で課題に感じているのが、緊急性が足りていないことです。対話しているご担当部門の方と思いを共有できても、組織内でのハードルがあることも。

気候変動がビジネス課題であり、対策をしないとビジネスが継続できないという課題意識はほとんどの企業が持っているはずですが、記録的な熱波が日本を襲い、洪水やサイクロンが激化する中、今のスピードでは間に合いません。また、大手メディアに伝えたいメッセージを同じトーンで伝えてもらうこと等は、とても難しく苦戦しています。

ですが、業界を超えた仲間たちと協力して、それぞれの役割を担いながら、気候変動対策のスピードを上げていくことに注力したいです。太陽光や風力などの再生可能エネルギー、蓄電池、スマートグリッドのアップグレードへの移行において、日本企業の役割はますます重要になっている、と大きな可能性も感じています。

そして、今後さらにつながりを増やして、いろいろな国のさまざまな方とコラボレーションを進めていき、社会として気候変動対策をすることが多くの課題解決につながるということをしっかり伝えていきたいです。また、実際に気候変動の影響を受けている人々の声を丁寧に拾い、伝えていくことでも力になっていきたいと考えています。

エシカル・コンシェルジュ講座を受けたのはもう約6年前になりますが、これまでに講座で講師をされた方とお仕事をご一緒させていただく機会があったり、今後もご一緒させていただく予定があったりと、エシカル協会とのつながりを感じられて嬉しいです。

講座で学んだことは潜在的に残っていたり、少しずつ情報収集するアンテナが変わっていったりするので、受講後すぐに何かを始めなくても、後からじわじわ効いてくる学びだと思います。もし受講を迷っている方がいたら、ぜひ一歩踏み出してみてほしいです。

オーストラリア、日本、アジア諸国から働くチームメンバー達と

文:大信田千尋(一般社団法人エシカル協会)

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