兆-kizasi-さん

Kizasi

#31

第31回目は、3期修了生の兆-kizasi-さんです。ヴィジュアル系バンドマンからエシカルの世界へ。音楽とファッションを通して社会課題と向き合い続けてきた歩みと、その背景にある想いを伺いました。

兆-kizasi-さんさんの写真

profile プロフィール

  • こんな活動をしています

    鳥取県米子市出身。ヴィジュアル系の元バンドマンという、異色の経歴を持つエシカルアーティスト。2017年末ごろから環境問題や社会課題に関心を持ちはじめ、2018年春にエシカル・コンシェルジュ講座を受講・修了。その後、 世界初のヴィジュアル系エシカル・コンシェルジュとして活動を開始。2020年には、エシカルファッションブランド『兆-KIZASI- MADE WITH JAPAN』(現:KIZASI)を設立し、音楽とファッションを通して社会問題などを発信し続けている。2026年は「エシカル・リーダー」としての活動も予定している。

  • おすすめのエシカル

    【ファッション】

    古着の染め替え|京黒染め:京都でいち早く洋服の黒染め替えを始めた馬場染工業さん。京都で受け継がれた京黒紋付染の技術を用いて、色褪せた洋服などを黒く生まれ変わらせています。京黒染めは高い堅牢度で色落ちしづらく黄ばみや変色などを気にせず長く着られる為、サステナブルな染色方法です。染料は大手百貨店の厳しい基準をクリアした、環境負荷の低い染料を使用されています。今ある服を大切にして長く着ることが、最も簡単で今日からできるエシカルファッションだと思っています。

    【エネルギー】

    みんな電力|プレミアム100プラン:自宅兼事務所では、CO2排出量がゼロで「顔の見える再生可能エネルギー」を提供する『みんな電力』を契約しています。毎日ほぼ常に使用している電気。電力会社を切り替えるだけで無理することなくエシカルライフを始めることができます。どこでどんな会社(団体)が再エネをつくっているのか知ることができて、電気料金の一部を応援金として発電所を支援できるので、私は地元である鳥取県米子市の発電所を応援しています。

導かれるように出会った映画

私は鳥取県米子市出身で、高校生の時からヴィジュアル系バンドをやっていました。高校を卒業後、東京に上京してからも音楽の専門学校で学びながら、メンバーを募ってバンド活動をしていました。しばらくは学校と並行して活動していましたが、バンドが忙しくなりインディーズ活動1本に専念することにしました。

ヴィジュアル系バンド時代の様子

いくつかバンドを経験したのち、最後のバンドでは3年ほど活動しましたが、解散することになり、その後は原宿系ファッションブランドで、モデル兼デザイナーとして働いていました。そして、ちょうどその頃、たまたまオンラインで見つけた、ファストファッションの裏側を描いたドキュメンタリー映画『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』を観ました。

それがきっかけで、ファストファッションの現状や裏側の事情、環境問題、人権問題など、いろいろな現実を知ることになります。映画の中で、バングラディッシュの生産者の方が、「私たちの血で染まったような服を着ないでほしい」というようなことをインタビューでおっしゃっていて、それを見て悲しくなって泣いてしまいました。

ファッション業界の裏側は、想像もつかないほど過酷な現実があり、地球環境にも大きな負荷をかけていることに、ものすごく衝撃を受けました。そして「これは何かを変えなくてはならない、行動しなくてはならない」という使命感のような強い想いが湧き上がってきました。

その映画でエシカルやサステナブルという言葉を知ることになり、いろいろと調べていくうちにたどり着いたのが「エシカル・コンシェルジュ講座」でした。ちょうど3期の講座が始まるという告知がされていたので、「これは学んで何かしらの行動を起こさなくては」と思い、すぐに申し込みました。3期の参加者は20人くらいだったと思います。女性が多く、男性は7,8人でした。

エシカル・コンシェルジュ講座の修了時、ソーシャルビジネスコンサルタント/元パタゴニア日本支社長でJリーグ執行役員の辻井隆行さん(左)と、エシカル協会 代表理事の末吉里花さん(右)と

衝撃から始まったエシカルの学び

印象に残っている講座は、認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事 岡田千尋さんの「エシカル消費と動物への配慮とは」の回です。エシカルという概念を知った時に、少し意識がありましたが、肉食というジレンマに向き合うのが難しくて避けてきたテーマでもありました。映像を通して初めてきちんと学んで、食に対する負荷や命の尊さを身近に感じ、衝撃がすごかったです。動物が好きなのに、見て見ぬふりをしてきた現実を突きつけられた感じでした。

全講座を受講後、とりあえずできることからやろうと思いましたが、実際には何がエシカルでエシカルじゃないかまだ分からない状態だったので、まずは講座で学んだ認証マークのあるものを積極的に選ぶようにしました。ただ、当時は選択肢がとても少なくて、見つけても価格が高く、日常的に取り入れるのは難しいというのが正直な気持ちでした。その中でも買えるものをできるだけ選んでいたのがスタートラインという感じです。

あとは、とにかくSNSなどのプロフィールにエシカルと入っている方たちを片っ端からフォローして、コンタクトを取って会いに行っていました。その当時のことはあまり覚えていませんが、間違いなく行動力の塊だったと思います(笑)。

自分のファッションブランドでメッセージを伝えたい

私は中学生の頃からギタリストの雅-miyavi-(現:MIYAVI)さんに憧れていて、ヴィジュアル系バンドを始めたのもMIYAVIさんがきっかけです。エシカルを知る前、MIYAVIさんが国連の難民支援機関である国連UNHCR協会の親善大使をされていたことで、難民支援というものを知り、戦争や紛争を少しだけ身近に感じるようになりました。

その影響もあり、当時働いていたファッションブランドで、デザインも少しさせてもらっていたので、「戦争反対」や「銃反対」などのメッセージ性を込めた社会問題をテーマにグラフィックを作りました。そのデザインを採用してもらい、売り上げもなかなか良かったので自信にも繋がりました。嬉しかったのは、デザインが可愛いという理由で買ってくれる方もいれば、デザインの意味まで知った上で共感して購入してくださる方もいて、音楽と同じように、ファッションでもメッセージを伝えられる可能性を感じました。

いつか自分のブランドを立ち上げて、このようにメッセージを伝えられたらいいなと思っていましたが、エシカルと出会って、自分のブランドを立ち上げるのであれば、エシカルファッションブランドをやりたいと考えるようになりました。こうして、講座を受講後の 2019年10月に独立して、2020年2月に自身のエシカルファッションブランド『兆-KIZASI- MADE WITH JAPAN』(現:KIZASI、以下KIZASI)を立ち上げ、ファッションとデザインの合同展示会「rooms」で発表しました。

『KIZASI』に込めた想いとブランドの思想

『KIZASI』は、日本の文化や伝統技術、思いやりやお陰さまといった「日本的倫理観(ジャパニーズ・エシカル)」にフォーカスした、エシカルファッションブランドです。ブランド名の由来でもある「兆/兆し」には、物事が起ころうとする気配や兆候という意味があり、「前兆」や「予兆」といった、何かが起こる前触れに使われることが多い言葉です。人や動物、地球の為に「より良い未来への兆しとなるように」という願いを込めて、ブランド名にしました。

その当時、エシカルファッションブランドはほとんどなくて、エシカルファッションを着たくても、身近に自分に合うブランドがありませんでした。特に原宿系と言われるような、ヴィジュアル系バンドや音楽系のちょっとサブカル寄りのブランドは皆無だったので、その先駆けになりたいという想いと、自分でも着たいという気持ちがありました。あとは、いわゆる原宿系ファッションは、安くて可愛い商品が売れる傾向にあるので、「高くても選ばれるようなブランドを作りたい、業界の概念自体を変えたい」という気持ちもありました。

『KIZASI』の素材はインドとタンザニアが原産国のオーガニックコットンです。講座で生産背景が見えることはとても大事なことだと学んだので、生産背景が辿れる生地にしました。当時は生産背景が知れる生地が本当に少なくて、その中でもオーガニックコットンは日本で取り扱っている会社が1,2社くらいしかありませんでした。商品に付属しているVIRTUAL TRAVEL TICKETタグのQRコードを読み込むことで、生地が出来上がるまでの全行程が見られるようになっています。

生地は京都の伝統技術「京黒染め」で染めています。エシカルイベントで出会った、繊維関係の会社の方に馬場染工業さんの「京黒染め」を教えていただいたことがきっかけです。すぐに馬場染工業さんに連絡し、工場見学をさせていただきました。その際にエシカルやブランドを立ち上げたいということを熱弁したところ、快く引き受けてくださいました。

ブランドの試練と、地元・鳥取でのエシカル活動

ブランドを発表した展示会の後、すぐにコロナ禍に入ってしまったので、予定していた展示会やPOP UPイベントなどができない状況になってしまいました。緊急事態宣言終了後、ネット販売をスタートしましたが、なかなか注文が入らず、かなり厳しい状況でした。

予想外の展開で、東京にいてもできることが少なかったので、2020年の10月に地元の鳥取県米子市に帰省することにしました。それからしばらくは、地元で海のごみ拾いや、商店街の古⺠家再⽣などに携わりながらエシカル活動をする日々でした。

2022年には、境港市の「伯州綿(和綿)栽培サポーター」に登録させていただき、市の畑の1畝を担当し、栽培や商品開発に取り組みました。1畝でできた和綿は、1m四方・厚み10cmくらいの量でしたが、これではTシャツ1枚も作れません。

和綿の繊維は太くて短いという特徴があり、他のオーガニックコットンを混ぜないと糸にするのに強度を保つのが難しく、本当に大変な生産方法だと実感しました。実際に自分が作った綿ではないですが、市が地元の企業と共同で開発した伯州綿の手拭い生地を使用して『KIZASI』のマスクを作りました。

伯州綿の栽培の様子
『KIZASI』のマスク

2023年には馬場染工業さんのご協力の元、『KIZASI』で染め替えサービスのPRを開始し、クラウドファンディングで⽬標を達成するなどブランド活動も続けていました。
同年には、ごみ拾い団体「green bird」⽶⼦⽀部の初期メンバーとして活動に参加し、ごみ拾い活動を定期的にしていました。帰省時は、鳥取でエシカルという言葉は誰も知らないような時でしたが、このタイミングでエシカルやサステナブルを意識する人が一気に増えたと感じました。

次のステージへ──京都での新たな挑戦

鳥取でエシカルの発信を続けてきた中で、いろいろと浸透しはじめて「もう自分の役割は終わったかな」と感じていました。そのタイミングで、もともと京都が舞台のドラマやアニメが好きで、いつか住みたいと思っていた京都へ2024年 10月に移住しました。クラウドファンディングを機に、サンプル製作などで出張が増え、改めて京都の良さを実感したのもきっかけの一つです。

京都ではブランドをやりながら、主にコンテンツディレクションや動画編集の仕事をしています。最近のエシカルファッションは、かっこいいブランドや、低価格帯のブランドも出ていて、業界全体がかなり変わってきたと思います。そうなると、どうしても似たようなブランドが増えてくるので、自身のブランドの在り方については、今すごく悩んでいます。

ただ、紛争や戦争はなくなっていないし、難民は増えているし、変わっていない部分はやはりあるので、ポリシーや大事にしている部分は、メッセージとして伝えていく必要があると思っています。コンスタントに商品を販売することができていないので、ブランドを応援してくださっている方には、とても申し訳ない気持ちもありますが、ブランドにこだわるのではなく、何か違う形でもできることがないか探っています。

伝統を未来へつなぐために

京都に住み始めてから少しずつ、京都ならではの社会課題を知る機会が増えてきました。今、京都の「京町家」について見過ごせない問題があり、かなり路線変更ですが、問題を解決するために自分にできることがあるかもしれないと思い始めています。

京町家は100〜150年前の明治〜大正時代に建てられた京都の代表的な建物として残っていますが、平均して年間1日2軒のペースで消えているという現実があります。税金の維持が大変で引っ越したり、修繕にすごくお金がかかるので新たな建物に立て替えたり、更地にしてしまう人が多いようです。

京町家は、建てる時に釘も使わず土壁などの自然素材だけを使用した伝統工法で作られているので、実はものすごくエシカルで、サステナブルな建物です。傷んでいる部分を取り替えるだけで、また何十年も保ちます。でも、その昔ながらの伝統工法ができる大工さんや、それを伝える人も年々減ってきていて、これも大きな問題となっています。若い世代が伝統を継承していかないと、どうにも難しい問題です。

私はもともと工業高校の建築学科を卒業していて、小さい頃の夢は大工さんになることでした。建築はやっぱり今でも好きで、京町家も京都らしくて好きなので、改修の何かに携われるように、実は建築の勉強を改めて始めました。

まだ漠然とですが、将来は京町家で自分の事務所を持ち、ブランドの展示会や販売をしたり、アコースティックライブをしたり、エシカルな取り組みを集めたマルチなスペースを作りたいです。10年後か20年後かいつになるか分かりませんが、エシカルという芯の部分は変えずに今後も取り組みながら、これまでの歩みの集大成としていつか形にできたらと思っています。

京町家改修の様子

文:大信田千尋(一般社団法人エシカル協会)

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