武知実波 さん

Takechi Minami

#34

第34回目は、12期修了生の武知実波さんです。プロサーファーとして活動する傍ら、教育事業の運営や環境教育、日本サーフィン連盟の副理事としての活動などを通じて、社会課題と向き合い続けてきた武知さん。児童労働との出会いや海外で目の当たりにした環境問題をきっかけに、「サーフィン」と「教育」を軸に実践してきたアクションと、その根底にある思いについてお話を伺いました。

武知実波 さんさんの写真

profile プロフィール

  • こんな活動をしています

    徳島県阿南市出身。高校3年でプロサーファーとなり、徳島大学在学中に世界ツアーを転戦。大学では英語教育、大学院ではスポーツ社会学を専攻。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では競技運営に従事。現在はTHE MINAMI代表として、サーフィンスクールや講演活動、学習塾、大会・イベントの運営を通じて教育活動とサーフィンの普及に努めるとともに、自然との共生を次世代へつなぐため、海を通じた気候アクションや環境保全の発信を続けている。パタゴニアサーフィンアンバサダー、サーフライダーファウンデーションジャパンアンバサダー、POW JAPANアンバサダー、阿南ふるさと大使、日本サーフィン連盟副理事長。

  • おすすめのエシカル

    【トリップ】

    トリップは楽しいものですが、そこには常に消費が伴います。だからこそ、できるだけ心地よい旅にするために、私はエシカル消費を意識しています。その土地を知り、その土地のものを食し、そこで暮らす人々の生活や文化を尊重する。そして、旅を楽しむだけで終わらせず、その土地や地域に還元できるよう努めています。

    【製品選び】

    私たちの身の回りには、たくさんの製品があります。だからこそ、何を選ぶのかという一つひとつの選択を大切にしています。環境に配慮してつくられた製品や、長く使い続けられるものを選ぶことは、日々の暮らしの中でできる身近なエシカルだと思います。自分が本当に必要なものなのかを考え、環境や未来に配慮した選択を積み重ねていきたいです。

プロサーファーとしての原点と、児童労働との出会い

私の活動の原点には、いつもサーフィンがあります。9歳の頃に両親の影響でサーフィンを始め、自然の中で過ごすことが当たり前の環境で育ちました。その後、高校3年生でプロサーファーとなり、国内外の大会に出場するようになります。

そんな中で、私の価値観を大きく変えた出来事がありました。高校1年生のとき、サーフィンの世界ジュニア選手権の日本代表として南米を訪れた際、初めて児童労働の現実を目の当たりにしたのです。自分と同じ年代、あるいはもっと幼い子どもたちが働く姿に大きな衝撃を受けました。

それまで世界にはさまざまな環境があることを知識としては理解していましたが、実際に目にすると、その重みはまったく違いました。同じ時代を生きながら、自分とは大きく異なる環境で暮らす子どもたちがいる。その現実を前に、自分の無力さを強く感じたことを覚えています。

帰国後、大学進学を考える中で、「プロサーファーとして活動しながらも、国際問題や教育について学びたい」「児童労働や貧困の背景にある教育格差の是正に関わる人材になりたい」と考えるようになりました。そして、サーフィンを続けながら大学で国際社会問題や教育について学びました。現在は、2022年10月に個人事業として、オンライン個別学習指導、サーフィンスクール、講演活動を通じて、目標達成をサポートするため「THE MINAMI」を立ち上げ、運営と講師を務めています。

振り返ると、南米での経験は社会課題を自分ごととして考える原点だったように思います。現在取り組んでいる教育活動や環境活動も、その経験につながっています。

サーフィンをしているところ

海に浮かぶごみが、環境問題を考えるきっかけに

もう1つ、私が環境問題を自分ごととして捉えるようになったきっかけが、大学1年生の頃に出場した東南アジアでのサーフィン大会です。現地のビーチには、大量のごみが流れ着いていました。日本のビーチクリーン活動で目にするようなペットボトルやプラスチックごみだけではなく、生活用品なども多く見られ、「国や地域によって流れ着くごみの種類がこんなにも違うのか」と強い関心を持ちました。

そんな中で迎えた大会中の出来事が、私の意識を大きく変えました。試合終了間際、逆転できると確信した波に乗ろうとした瞬間、目の前に50センチ四方ほどの大きなビニール袋が浮いていました。避けようとした結果うまくテイクオフできず、そのまま敗退してしまいました。当時は悔しさでいっぱいでしたが、次第に「なぜ自然の中にビニール袋があるのだろう」と考えるようになりました。

自然をフィールドとするサーフィンでは、海の環境がそのまま競技環境につながります。それ以降、ビーチクリーンでも「何が落ちているのか」「なぜそこにあるのか」を意識するようになりました。海のごみは決してサーファーだけの問題ではありません。海に流れ着くごみの多くは、私たちの日常生活とつながっています。だからこそ、自然をフィールドに活動するアスリートとして、今海で起きていることを伝え続けたいと思っています。

その後、Patagoniaのアンバサダーとして活動するようになり、プラスチック問題だけでなく、エネルギーや気候変動など、より広い視点で環境課題を学ぶようになりました。現在は、プロサーファーとしての活動に加え、学校でのサーフィンの授業やビーチスクールの主催、講演活動などのサーフィンの普及活動と、公益社団法人日本サーフィン連盟の副理事も務めており、「教育」と「サーフィン」を軸にさまざまな取り組みを行っています。

ビーチクリーンの様子

社会課題同士がどのようにつながっているのかを知ることができた

エシカル・コンシェルジュ講座を受講したのは2023年の12期です。当時すでにパタゴニアのアンバサダーとして活動していましたし、元競泳選手の井本直歩子さんが代表をされているSDGs in Sportsの講座などで環境問題や気候変動についても日頃から関心を持って学んでいました。

ただ、その頃に強く感じていたのが、「正しい情報を体系的に学び直したい」という思いでした。環境問題や気候変動に関する情報は日々更新されていて、新しい研究やデータも次々と発表されます。私自身、講演活動や教育活動を行う立場でもあったため、発信する内容には責任を持ちたいと思っていました。

一方で、インターネット上にはさまざまな情報があふれていて、何を基準に学べばいいのか迷うこともあります。だからこそ、信頼できる講師の方々から体系的に学び、さらにアウトプットの方法まで学べるエシカル・コンシェルジュ講座は、まさに今の自分に必要だと感じました。

実際に受講してみると、気候変動だけでなく、人権やアニマルウェルフェア、エネルギー問題、教育など、本当に幅広いテーマに触れることができました。それまでニュースや記事を通じて概要は知っていても、専門家の方から直接話を聞く機会はほとんどありませんでした。自分が関心を持っていた環境分野だけでなく、社会課題同士がどのようにつながっているのかを知ることができたのは、とても大きな学びだったと思います。

一度学んで終わりではなく、学び続けるきっかけに

印象に残っているのは、気候変動と人権に関する講座です。Climate Integrate代表理事 平田仁子さんの「気候変動の今 – 迫る危機に何ができるのか」では、気候変動について、現状を正しく理解するための客観的なデータや科学的な根拠を学ぶことができました。私は普段から講演などで環境について話す機会があるので、「これは自信を持って伝えられる」と思える知識を得られたことは大きな収穫でした。

また、特に心に残っているのが、英国エセックス大学ヒューマンライツ・センター フェロー 藤田早苗さんの「世界から見た日本のヒューマンライツ」です。学校教育の中で人権について学んできたつもりですが、世界の中で見た日本の現状や、自分自身が気づいていなかった課題について知ることで、多くの気づきを得ました。人権だけに限らず、講座で学んだ視点は、その後の活動にも大きく影響していると感じています。

また、講座を通じて得られたのは知識だけではありませんでした。講座後のアウトプット会で、同期の受講生と交流できたことも、私にとって大きな財産です。同じ社会課題に関心を持ちながらも、それぞれ異なる分野で活動している方々の話を聞くことで、自分にはなかった視点や考え方に触れることができました。講座が終わってからも、「みんなが頑張っているから自分も頑張ろう」と思える仲間の存在は大きく、一度学んで終わりではなく、学び続けるきっかけを与えてもらったと感じています。

受講後は、自分の活動の中で何かを企画するときにも、「どうすれば環境負荷を減らせるだろう」「もっと多様な人たちが参加できる方法はないだろうか」と考えることが自然になりました。知識が増えたというよりも、物事を見る視点や選択肢が増えた。それが私にとって最も大きな変化だったと思います。

海を通じた教育と、誰もが自然にアクセスできる社会を目指して

近年特に関心があり参加させていただいているのが、障がいのある子どもたちや、さまざまな背景を持つ人たちが海に親しめる機会をつくることです。活動を通して感じるのは、私たちにとって当たり前のことが、誰かにとっては当たり前ではないという現実です。例えば、車いすを利用している方にとっては、砂浜そのものが大きな障壁になります。海までたどり着くためにはビーチマットなどの設備が必要ですが、日本ではまだ十分に整備されているとは言えません。また、医療的ケアが必要な子どもたちの場合は、安全面やサポート体制の問題もあり、海へ行くこと自体のハードルが高くなります。

実際、活動の中で、「家族で海を楽しめる日が来るとは思わなかった」と話してくださる保護者の方もいらっしゃいました。そのたびに感じるのは、これは本人や家族の問題ではなく、社会の環境整備や仕組みの問題だということです。海に行きたくてもアクセスできない。サポートが足りない。環境が整っていない。そうした理由によって、本来享受できるはずの体験や権利が失われている現実があります。もし誰もが安全に自然へアクセスできる環境が整っていたら、もっと多くの人が海の魅力や自然とのつながりを感じられるはずです。だからこそ、行政や地域、スポーツ団体が連携しながら環境を整えていく必要があると感じています。

また近年は、「サーフセラピー」と呼ばれる分野にも関わっています。海外では、サーフィンを心のケアやリハビリテーションの一環として活用する研究が進んでおり、PTSDやストレス障害を抱える方々への支援としても注目されています。日本でも研究が始まっていて、私自身もその活動に関わっています。

海や水辺にはストレスを解消する効果があると言われていますが、サーフィンを通して自然と触れ合うことが、精神的な回復や自己効力感の向上につながる可能性があります。障がいのある子どもたちや発達特性のある子どもたちへの取り組みでも、ポジティブな変化が見られています。サーフィンは単なるスポーツではなく、人と自然、人と社会をつなぐ力を持っている。その可能性をもっと広げていきたいと思っています。

ビーチマットが敷かれているビーチ

日本サーフィン連盟で挑む環境教育とシステムチェンジ

私が日本サーフィン連盟の理事を引き受けたのは、2023年、ちょうどエシカル・コンシェルジュ講座を受け始めてすぐでした。理事に就任した当時、私は他の理事の方々と比べるとかなり若い世代でした。そんな中で、自分に何ができるのかを考えたとき、これまで学んできた環境問題や教育の知識を組織の中で活かすことが、自分の役割なのではないかと考え、自分自身が「システムを変える側」に立ちたいと思いました。

サーフィンは自然をフィールドにするスポーツですが、連盟の中には環境について継続的に議論する仕組みが十分に整っていませんでした。そこで2025年度から環境に関する部会が立ち上がり、環境課題への取り組みも本格的に進み始めています。私自身は教育本部の担当理事として、サーフィンと教育を結びつける役割を担っています。海へ行けば自然環境への関心が生まれますし、ごみが落ちていれば「どこから来たのだろう」と考えるきっかけになります。そうした接点を見つけ、提案していくことが今の私の仕事の一つだと考えています。

さらに現在は、今年度から連盟の理事や委員長などを対象にした環境教育プログラムも企画・運営しています。全8回の講座を通じて、気候変動の基礎から、サーフィン業界への影響(気象と海洋保護、生物多様性とプラごみ問題について)、国際サーフィン連盟の取り組みや他のスポーツ団体の実例までを学び、参加者全員が環境問題を自分ごととして捉えられることを目指しています。私たちは海で活動している以上、気候変動の影響を直接受けています。近年は異常気象や大型台風の増加によって大会運営にも影響が出ていますし、海岸環境の変化も各地で起きています。

だからこそ、環境問題を「誰かの課題」ではなく、「自分たちの課題」として理解することが必要だと思っています。もちろん、知識を得ることがゴールではありません。学びをもとに新しいルールや仕組みをつくり、組織として行動に移していくことが大切です。この環境教育プログラムを企画する際には、自身が受講したエシカル・コンシェルジュ講座で、体系的に学ぶことや対話を通じた学びの有効性を実感できたことが大きな後押しになりました。自分が学んだ経験を、今度はサーフィン業界全体の学びにつなげていきたいと考えています。

自然を大切にする仲間を増やすことが、未来への第一歩

今後の目標を考えたとき、私が最も大切だと思っているのは、「自然を大切に思う仲間を増やすこと」です。現在、サーフィン業界が抱える大きな課題の一つに「海離れ」があります。これは単純にサーフィン人口の問題ではありません。海や山、川などの自然と触れ合う機会が減ることで、自然を身近に感じる人が少なくなり、その結果として自然環境への関心も薄れてしまう。私はそこに大きな課題があると感じています。

人は大切だと思うものを守ろうとします。海が自分にとって特別な場所になれば、ごみを捨てようとは思わないでしょうし、環境を傷つける行動にも疑問を持つはずです。だからこそ、まずは自然と出会い、自然を好きになってもらうことが大切だと思っています。サーフィンやビーチスクール、教育活動も、すべてはそのための入り口です。

そしてもう一つ、私自身の目標としてあるのが、社会の仕組みをより良い方向へ変えていける人材になることです。個人の努力だけでは解決できない課題もたくさんあります。だからこそ、教育や政策、組織の仕組みづくりなど、より大きな視点から変化を生み出していく必要があります。良いものは残しながら、変えるべきところは勇気を持って変えていく。そのために学び続け、行動し続けたいと思っています。

エシカル・コンシェルジュ講座を受講した時期は、ちょうど私自身が大きな挑戦と葛藤の中にいた時期でもありました。そんな中で、同じように社会課題と向き合う仲間たちと出会い、学び合えたことは大きな支えになりました。同じ方向を向く仲間がいることで、新しい挑戦に踏み出す勇気が生まれます。これからも海と教育を通じて、一人でも多くの人が自然とのつながりを感じられる社会を目指して活動を続けていきたいと思います。

サーフィンのスクールの参加者のみなさんと

文:大信田千尋(一般社団法人エシカル協会)

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