滝本将史 さん
Takimoto Masashi
#35
第35回目は、7期修了生の滝本将史さんです。自然とともに育ち、日本ミツバチや土地との関わりを通して、自分なりの「エシカル」を考え続けてきた滝本さん。80カ国以上を旅し、さまざまな文化や価値観に触れる中で、「当たり前」を問い直しながら、好奇心を原動力に新しいことへ挑戦してきました。そんな滝本さんに、これまでの経験から学んだこと、そしてこれからつくっていきたい未来について伺いました。
profile プロフィール
-
こんな活動をしています
茨城県つくば市生まれ。10代の頃から世界中を旅する中でロングトレイル中に深刻なゴミ問題と直面。大型自動二輪と小型船舶操縦士1級を取得し、近くの海や湖でクルージングや釣りをしたり、サーフィンをする傍ら、仲間とゴミ拾いをしたり、海洋問題、マイクロプラスチック等の深刻な問題に取り組む。現在は有限会社の取締役として小売業や土地活用にも従事し、Organic Shopのアドバイザーとしても活動。幼少期から自然とともに暮らしてきた経験を原点に、自然環境について考え、自然と共存するリジェネラティブな生き方を模索している。
-
おすすめのエシカル
【Patagonia】
高校生の時 バイトして初めて買ったのがPatagoniaの古着でした。Tシャツやアロハシャツ、シンチラと呼ばれた名作(今でいうフリース)など、懐かしい想い出です。Patagoniaのアメリカ文化と歴史、アウトドア商品など、創業者イヴォン・シュイナードの経営哲学や子どものように本気で遊ぶ姿に強く影響を受けました。私にとってPatagoniaは人生の大きなターニングポイントです。現在のPatagoniaの素材(オーガニックコットンや軽量なリサイクルポリエステル、テンセル、リヨセルなど)は、旅でも軽量かつ丈夫で好きな素材です。Patagonia歴は約30年になりますが、今もなお進化し続ける姿に共感しています。
Patagoniaのナノ・パフ・ジャケットを着てハワイ島でのマウナケアの山頂にて(Big Island Hawaii Mauna Kea)
【桐下駄や竹の草鞋】
私の住む集落では下駄や草鞋(わらじ)を履く人が多く、私も桐の下駄や竹の皮の草鞋、足半(あしなか)などを愛用して20年ほど経ちます。どれも昔ながらの伝統ある職人さんが作ったもので、丈夫で何年も活躍してくれてます。1年中履きますが、寒い時期でも不思議と足は暖かいのです。素足になるというのは身体の基礎代謝が上がるので、足から冷えるのではなく、足から温まるのだと実感しています。大地とのアーシング効果も絶大です。ぜひたくさんの人に使って体感して欲しいと願っているので、自らがそれらを身に付け表現し、職人の想いや伝統と人をつなぐこともしています。
竹皮の草鞋
自然とともに生きることが当たり前だった幼少期
私の原点には、幼い頃から広大な農地で自然とともに暮らしてきた経験があります。生まれ育った家では、祖父の影響を受け、いわば自給自足の暮らしをしていました。地下水を使い、家族みんなで畑をやって、ヤギなどの動物も飼っていました。薪を割ってご飯を炊いたり、お風呂を沸かしたりすることも日常の一部。子どもの頃から、自然の中で暮らすことが当たり前でした。
近所の人たちとの間でも、物を分け合ったり、物々交換をしたりする文化がありました。今振り返ると、当時の暮らしそのものが、今でいう「エシカル」に近かったのかもしれません。小学生の頃には、草刈りをしているとノウサギの子どもが出てきたり、身近な場所でさまざまな野生動物に出会ったりもしました。自然が特別なものではなく、生活のすぐそばにありました。
そんな幼少期の経験の中でも、後の人生に大きな影響を与えたのが、日本ミツバチとの出会いでした。5、6歳くらいの頃から、家の周りにある古くて大きな杉の木の根元に空間が出来るのですが、そこに自然巣をつくる日本ミツバチをよく見て来ました。春になると旧女王の群れが新女王の群と分かれ新しい場所へ移っていく「分蜂」も身近に見ていました。
その頃は、まさか自分が養蜂をすることになるとは思っていませんでしたが、子どもの頃から身近にいた日本ミツバチは、後に私の生き方そのものを考えるきっかけになっていきました。


日本ミツバチとの出会いから、養蜂の道へ
18歳で東京に出てからも、農業や自然に関わることへの興味はずっとありました。そして20代になると、本業の合間に副業として本格的に日本ミツバチの養蜂を始めました。日本ミツバチは野生の生き物で環境に敏感かつ神経質です。人間の都合だけでは動いてくれません。日本ミツバチは飼うというより、「ここに居てもらう」という素直な感覚が必要になります。
分蜂のタイミングなどを勉強しながら巣箱をつくり、群れが入ってくれるのを待ちました。巣箱も一つひとつ手づくりしていました。次第に養蜂について教えてほしいと言われるようになり、巣箱をつくって販売したり、群れを移動させたりすることもありました。関東周辺から甲信越地方まで、巣箱を運んだこともあります。
でも、何年か続けるうちに、「自然に生きているミツバチを、自分が移動させることで、かえって自然に負荷をかけているんじゃないか」と違和感を持つようになりました。地域ごとに環境は違いますし、ミツバチにもその土地に適した個体がいます。それなのに、人間の都合で群れを移動させたり、血統を強くしたりすることに、少しずつ疑問を感じるようになりました。
そこで、ミツバチを移動させることや販売することをやめ、できるだけその地域の中でミツバチが増えていく環境をつくる方向へ考え方を変えていきました。もちろん、当時は批判されたこともあります。それでも、自分が感じた違和感を無視したくありませんでした。生き物を扱う以上、「人間にとって都合がいいか」だけではなく、「その生き物にとってどうなのか」を考えたい。日本ミツバチとの関わりを通して、そんな感覚が自分の中に根づいていきました。


受け継いだ土地を、次の人へつないでいく
もう一つ、今の自分の活動につながっているのが、家の土地との関わりです。私の家には、代々受け継いできた農地があります。子どもの頃は、その土地を走り回って遊んでいました。野球をしたり、サッカーをしたり、暗くなるまで自然の中で遊んでいました。
父が土地を管理していましたが、亡くなった後は私が引き継ぐことになりました。農地は簡単に売ったり、別の用途に変えたりできるものではありません。管理するだけでも大変ですが、だからといって、思い出のある土地を手放したくありませんでしたし、単純に「土地を売ってしまえばいい」とは考えられませんでした。
20代の頃から、土地を大規模な施設などに変えることには反対していて、「自分が何とかするから」と父とも話していたので、今はその約束を自分なりに形にしている最中です。農地として使ってくれる人に貸したり、別の土地ではお店などに活用したりしながら、土地を必要としている人につないでいく方法を模索しています。
土地は、ただ所有しているだけではなく、誰かが使い、地域の中で生かされてこそ意味があると思っています。自然や土地を守るというと、何か特別な活動をイメージするかもしれません。でも私にとっては、自分が受け継いだものを簡単に手放さず、必要としている人につないでいくことも、その一つです。
体系的に学んだことを、自分の暮らしや行動につなげる
エシカル・コンシェルジュ講座の存在や、代表の末吉里花さんの活動は2015年頃から知っていて、「いつか講座を受けてみたい」と思っていました。実際に受講したのは2020年。コロナ禍で、それまでとは時間の使い方や働き方が大きく変わったこともきっかけでした。
私自身、幼い頃から自然に配慮した暮らしをしてきましたし、日本ミツバチや土地との関わりを通して、自分なりに「こういう生き方がいいんじゃないか」という感覚は持っていたので、改めて体系的に学びたいと思っていました。
講座では、教育、エシカル消費、ゼロウェイスト、アニマルウェルフェア、サステナビリティ、エネルギー、気候変動など、さまざまな分野の専門家の話が聞けました。「いろいろな人の話を聞いて、自分の世界を広げたい」という気持ちで受講しましたが、それまで自分が経験してきたこととは違う角度から社会課題を見ることができたのは、とても大きな学びでした。
振り返ると、自分がこれまで感覚的に大切にしてきたことを、社会や環境の問題と結びつけて考えるきっかけになったのが、エシカル・コンシェルジュ講座だったと思います。講座を受けたからといって、何か劇的に生き方が変わったわけではありません。むしろ、それまで自分が大切にしてきたことを、別の角度から捉え直せるようになった感覚があります。
例えば、日本ミツバチとの関わり方を考えたときも、「自然にとって本当にいいことなのか」と一度立ち止まって考える。土地についても、「自分が所有しているから自分のもの」ではなく、「この土地をどう使えば、地域や次の人にとって意味のあるものになるだろう」と考える。そういう視点は、講座で学んだことともつながっています。
エシカルという言葉は、何か一つの正解があるものではないと思っています。自分が良いと思ってやっていることでも、別の角度から見ると、誰かや何かに負荷をかけているかもしれない。だからこそ、一度決めたことをそのまま続けるのではなく、「本当にこれでいいのかな」と考え続けることが大切なんじゃないでしょうか。学びながら、試しながら、必要であればやり方を変えていく。それが、私にとってのエシカルな生き方なのだと思います。
好奇心を原動力に、「人生は行動」と考える
今の私は、土地の管理や活用に関わりながら、国内外のさまざまな場所を訪れています。自分を動かしている一番の原動力は、やはり好奇心です。「やってみたい」と思ったら、まず動いてみる。私の中には「人生は行動」という哲学があります。
これまでに80カ国以上を訪れました。旅をするときに大切にしているのは、単に有名な場所を訪れることではありません。その土地の人と一緒に文化を味わったり、歴史や暮らしについて話を聞いたり、博物館や美術館を訪れたり。自分だけでは分からないことは、現地のガイドに案内してもらうこともあります。せっかくその場所に行くなら、そこで暮らす人たちのことや、その土地の背景まで知りたいと思っています。
その中でも、特に印象に残っているのが、南米のパタゴニアです。もともとPatagoniaというブランドが好きだったこともあり、「いつかその土地に行ってみたい」と思っていました。実際に訪れたときは、ずっと好きだったブランドの背景にある土地や風景を、自分の目で見られたことに大きな感動がありました。
実際にその土地を歩いてみると、写真や情報だけでは分からない自然のスケールや、その土地ならではの空気を感じることができます。好きなもののルーツを自分で訪ねてみることで、これまでとは違った見方ができるようになったことも、旅の大きな魅力だと思っています。


好奇心を行動に変え、自分なりの人生を実験する
旅する中で強く感じたのは、「当たり前」は国や地域によってまったく違うということです。日本で暮らしていると、食事や買い物、交通、住環境など、日常生活の多くを当たり前のものとして受け止めています。でも、海外に行くと、同じ地球上で暮らしていても、生活のあり方や価値観が大きく異なることに気づかされます。また、旅に出ることで今までの常識が壊され新たな変化や柔軟性も生まれます。
特に印象に残っているのは、経済的に豊かとは言えない地域でも、そこに暮らす人たちが楽しそうに生活している姿です。物がたくさんあることが、必ずしも豊かさや幸せにつながるわけではない。今ある限られたものを大切に使いながら、人とのつながりや自然との時間を楽しんでいる人たちの姿から、「豊かに生きるとはどういうことなんだろう」と考えさせられることが何度もありました。
また、旅をしていると、その土地の文化や暮らしが自然環境と深く結びついていることにも気づきます。一方で、環境問題や貧困、人権など、国境を越えて共通する課題があることも実感しました。遠い国で起きているように見える問題も、実は私たちの暮らしや消費とつながっていることがあります。旅を通して世界を知るほど、「自分とは関係のないこと」と切り離して考えることが難しくなっていきました。
そうした経験を重ねることで、「こうあるべき」より「こう在りたい」と想うようになりました。物事を一つの価値観だけで判断せず、いろいろな立場や背景から考える。80カ国以上を訪れた経験は、単にたくさんの場所を見てきたということではなく、自分自身の価値観や世界観を相対化する経験だったと思います。
だからこそ、これからも自分の好奇心に従って、知らない場所へ行き、知らない人や文化に出会っていきたいと思っています。旅をして、知って、感じたことを、自分の活動やこれからつくっていく「場」にもつなげていきたい。人生は一度きりだからこそ、興味を持ったことや未知なるモノに出逢って挑戦して行きたいと思っています。
もちろん、やってみて失敗することもあります。でも、実際に動いてみなければ分からないこともたくさんある。だからこそ、動くことにも意味がある。人生は壮大なる実験として日々奮闘中です。頭の中で考えて終わるのではなく、まずはじめの一歩を踏み出すことも大切にしています。

自然と人がつながる「場」を、これからもつくっていきたい
現在は、日本の土地を守る役目として、過疎化地域や秘境にある土地と、そこに暮らす地元の方々をつなぐ「交渉人」のような役割も担っています。また、これまでに古民家再生やタイニーハウスづくりにも携わってきました。現在は、建築士の仲間とともに、持続可能でリジェネラティブな建築や、自然と共存するオフグリッドの暮らしにも取り組んでいます。いずれは、自身の土地を活用して、地域に根ざしたOrganic Shopを開くことも検討しています。
今後は国内にとどまらず、海外にも視野を広げ、土地の視察も行っていく予定です。2026年からはアメリカ・ロサンゼルスへ渡り、自家用ヘリコプターのライセンス取得にも取り組む予定です。上空から土地の形状などを観察するなど、今後の土地に関する活動にも生かしていきたいと考えています。
それから、自然や土地、人とのつながりを感じられる「場」を今後つくっていきたいです。これまで私は、自然の中で遊び、働き、生き物と関わり、土地を守るという経験をしてきました。そこには、子どもの頃に感じていたワクワクする感覚があります。大人になると、効率や損得を考えることが増えていきます。でも、子どもの頃のように「面白そう」「やってみたい」と思える気持ちは、ずっと大切にしたい。特に子どもたちには、自然の中で思い切り遊び、さまざまなものに触れながら、自分の好奇心を育ててほしいと思っています。
自然に触れれば、自然のことをもっと知りたくなる。生き物を知れば、その環境について考えるようになる。土地を使えば、その土地の歴史や人とのつながりにも興味が生まれる。そうした体験の中から、一人ひとりが「やってみたい」「挑戦してみたい」と思えるものを見つけてほしい。そして、その「好き」や「知りたい」という気持ちが、自然や社会を大切にすることにもつながっていくのだと思います。
だから私は、これからも自分自身が好奇心を持って動き続けたい。そして、そこで得た経験を誰かと共有していきたいと思っています。私が大切にしているのは、「自然に身を任せる」ということです。これは、何もしないということではありません。誰かに何かを押し付けたり、誰かに期待したりするのではなく、必要以上に無理をせず、自分にできることを自分の意思で行動に移すということです。これからも、自然や人との出会いの中で生まれる新しい可能性を楽しみながら、自分なりの「エシカル」を探していきたいと思っています。
言葉よりも行動を
Act rather than speak. No fun No gain.
