まさにエシカルな調理器具であるソーラークッカーについて、加茂さんからお話を伺いました。太陽の恵みと美味しい料理、ぜひ堪能してみたいですね!

SDGsの先駆者であるソーラークッキングとは?

早稲田大学 加茂徹

炎天下に止めた自動車のボンネットを触り、目玉焼きくらい簡単にできるかなと考えた方は多いと思う。最近、再生可能エネルギーとして太陽発電が注目されているが、太陽熱の利用は非常に古く、アルキメデスが鏡で光を集めてローマの軍船を焼き払ったとの伝説も残されている。

調理器具としては、18世紀のスイスの科学者ホレスドソシュールが蓄熱タイプのソーラークッカーを作ったのが最初とされている※1。日本では1955年にプラネタリウムで有名な五島齊三がパラボラ式のソーラークッカーを製作し、アメリカで開催された太陽熱利用世界シンポウムで公開実験をして評判になった※2。その後、米国大使館に勤務していた鳥居ヤス子が米国で初めてソーラーオーブンを見て、帰国後簡易型のソーラークッカーを考案し、2005年に日本ソーラークッキング協会を設立した。

ソーラークッカーには反射式と蓄熱式があり、反射式では放物面鏡を用いたパラボラ式ソーラークッカー(図①)の集光性能が高く、広く用いられている。一般に放物面鏡を製作することは難しいが、クッカーの場合は加熱対象物が鍋など比較的大きく、高い工作精度を要求されていないので多数の平面鏡を放物面に沿って並べて使用する場合も多い。

箱の上面にガラス等の透明な素材を用い、内部を黒色に塗装して箱の周辺に反射鏡を取り付けた蓄熱型オーブンクッカー(図②)は、構造が単純で比較的製作し易い。パラボラ式や蓄熱式では容易に高温を得られるが、装置が大きく収納が難しく、価格も高い。アルミホイルを張り付けた厚紙を放物線に沿って湾曲させた簡易型のソーラークッカー(図③)は、安価で軽量で簡単に作ることができるが、集光性が低く高温を得ることは難しい。

著者らは最近、従来とは全く異なる構造を有し、しかも軽量で収納し易く集光率が比較的高い多重反射式ソーラークッカーを開発し特許申請した。公開された後、機会があれば是非紹介したいと考えている。

途上国では電気やガスの普及率が低く、今でも薪が炊事の主要なエネルギー源となっている。薪拾いは主に子供の仕事で多くの時間を費やすため、教育を受ける機会が奪われている。また砂漠の拡大は深刻な環境問題であり、僅かに残った木々も薪として使われ砂漠化が加速されている。ソーラークッキングは薪を使用しないで炊事ができるため、子供の教育時間の確保や砂漠化の防止に有効な手段である。鳥居※3や西川※4らは、SDGsが提唱される遥か以前の1990年代から海外でのソーラークッカーの普及に努めてきた。

高性能なパラボラ式クッカーでは、200℃以上の高温が得られるので肉を焼くことができる。一方、簡易型クッカーでは燃料代がかからない特徴を活かし、長時間煮込む料理に適している。最近注目されている低温調理法とは、細菌は死滅するがタンパク質が固くならない温度(65℃、15分以上)※5で料理する手法で、安価なトリムネ肉が柔らかく、野菜に火は通るが歯応えを残すなど、食べ物本来の美味しさを引き出すことができる。また水は、85℃で30分以上加熱すれば飲むことが可能である※6.7。

途上国の児童労働を廃絶し、砂漠化等を予防し、調理の際に発生する二酸化炭素を低減できるソーラークッカーはエシカルな調理器具であり、今後さらなる普及が期待されている。また日本では、災害時の調理や飲料水の確保、あるいは火を使わないキャンプ用品として注目されている。晴れた日に太陽の恵みを感じながら料理を楽しむソーラークッキングは、自然と対話する感覚を研ぎ澄ます効果があり、新しいアウトドアとして楽しんでみては如何だろうか?

加茂徹
工学博士 早稲田大学 客員教授
連絡先 tohru-kamo@mist.dti.ne.jp
http://www.aoni.waseda.jp/tohru-kamo/labo.html

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