実はソーセージはとても奥深い食べ物なんです。長い歴史やその土地の文化や宗教、伝統的な技術や生きていくための知恵などがぎっしりと詰まっています。自然との共生や持続可能なソーセージを常に考えながら行動し続けているコンシェルジュの村上さんからお話を伺いました。

ソーセージにみる多様性

こんにちは。エシカル・コンシェルジュ10期生の村上武士です。わたしは山梨県で世界中のソーセージや創作ソーセージを科学的な薬剤をつかうことなく製造販売しています。
エシカル協会でお肉の話をさせていただくのはとてもデリケートで、動物福祉の観点からお肉を召し上がらない選択をする方もおられると聞きました。
現在、畜産は環境負荷や動物福祉、抗生物質の人体への影響、飼料高騰による経営危機など、その根本からの在り方を問われる段階にきています。わたしのような小さな事業者でも“ハチドリのひとしずく”のマインドで自分にできることをできる限り考え実行することを心がけています。

ソーセージといえばドイツ!という連想が日本では定着してますが、実はソーセージは世界中に土着のものがあります。それは多種多様で使う肉も違う、入れる腸も違う、長さも太さも色も全く異なります。それは歴史に紐付けされた気候、風土、文化、宗教などが大きく影響してると言われてます。この多様性の面白さにわたしは惚れました!

世界のソーセージの特徴は、かつてオスマン帝国の重要な拠点であったアフリカ大陸の地中海沿岸地域ではメルゲーズという羊肉のエキゾチックなソーセージがあること。タイやミャンマーが位置する東南アジアの湿度があり温かい気候では発酵の食文化が進んでおり酸っぱいソーセージが市民権を得ていることなどです。

わたしのつくる創作ソーセージは、ワインの搾りかすや酒粕のような副産物、植物の花や葉の利用、肉や魚の筋張った部位などを積極的に使用してアップサイクルやブリコラージュの精神を取り入れています。
夕飯の残りものの”おかず”をお家で簡単アップサイクル「肉じゃがソーセージ」やコーヒーやお茶の出がらしを利用した燻製方法、またイカの”胴体”を”腸”に見立てお肉やその他イカのほぼすべてを胴詰した「イカソーセージ」などです。ゆくゆくは未利用魚などをなんとか詰めれないものかと思案中です。

ソーセージの皮の部分は大きく二種類に分類されることをご存知でしょうか?動物の腸を洗浄して使う“天然腸”と人が人工的に作った”人工腸” です。

天然腸は日本ではソーセージ全体の7割程度を占め羊の腸と豚の腸が主流でそのすべてを輸入に頼ってます。現在、天然腸をとりまく環境は非常に厳しいと天然腸を扱う商社に伺いました。まず工場で動物の腸を洗浄してしごく作業はその過酷さから担い手が不足しているそうです。また、大部分中国で加工されたものが日本に入ってきてますが、日本の規格が厳しいせいか昨今ヨーロッパへ売られる量が拡大したそうです。そのため、天然腸も価格が高騰しており、とりわけ日本の天然腸の商社さんは少ない量を取り合いになっているそうです。今後、環境負荷や動物福祉の観点での頭数削減や代替肉や培養肉が台頭してくるとますます天然腸というものはこれまでのようには取れなくなってくるのではないかと考えています。

一方、人工腸はさらに細かく分類され可食性のコラーゲンケーシング(casing=入れ物の袋の意)と非可食性のプラスチック系、セルロース系、ネット系があります。コンビニでみる真っ直ぐなフランクフルトがコラーゲンケーシングです。ボロニアソーセージや魚肉ソーセージによく使われるのが塩化ビニリデンのプラスチックケーシングです。

わたしが注目するのはコラーゲンケーシングです。コラーゲンの原料は、牛の真皮層が使われています。もともと戦前の皮革製造の過程であまった原料をアップサイクルしたのが始まりなんですよ。天然腸よりも比較的市場に左右されにくく、価格に影響が出にくいのも特徴です。
いまは植物由来のビーガン用の人工ケーシングも各社研究されているとか。

20世紀からの行きすぎた工業的な畜産も世界各国その風土に合わせたリジェネラティブな畜産へと変化が求められています。畜産のそもそものあり方が問われる時代になりソーセージも合わせて変化する段階にきていると思います。

もともとソーセージはそのままでは食べづらい部位やあまった肉を無駄なく利用するための人類の知恵です。なんかもったない精神の塊ですね。動物の腸や胃などの袋状のものは人類最古の土に還る包装材です。それは農作物が育たない厳しい環境下での保存食や旅の携行食として5000年ものあいだ人に寄り添ってきた食べものです。

自然との共生を念頭に現代における持続可能なソーセージはどのようなものか?今後も探っていきたいと思います。