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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】

#8 ハウスクリーニング業界のファーストペンギン

\ 本川誠さん /

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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。

第8回目は、11期修了生の本川誠さんです。はじめに「私は元々ごみをポイ捨てするような人で、エシカルな生き方をしてきた人間ではありません」と教えてくれた本川さん。そこからなぜ、エシカルな事業を始めたのか、ハウスクリーニング業界のファーストペンギンになるまでのストーリーをじっくり伺いました。

::Profile ::

本川誠
「きれいごとで きれいにしよう」がタグラインのギルティーフリーなハウスクリーニングチェーン、株式会社エシカルノーマル代表。2021年、目の前で泣いている人がいないゆえに後回しになりがちな日本の環境問題に、専門家を集めて日常生活に密着したハウスクリーニング業界から挑むスタートアップを立ち上げる。普段は常にTPOに合わせたTシャツを着ている変な人。Tシャツは基本オーガニックコットン&着古したものは布封筒にリメイクし、エシカルノーマルのギフトカードを贈る際に使っている。
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おすすめエシカル
【エシカルノーマルグッズ】
初のオリジナル洗剤「タンパク質汚れ用バイオ洗剤」:特殊清掃現場で使われる、強烈な血液や体液、襟袖の汚れなどを分解する環境負荷がない酵素洗剤。少量の水で汚れを落とせるので断水している被災地でも活躍します。私は出張時に携帯してホテルのベッドに鼻血を垂らしてしまった時や、上着につけ麺の汁が飛んでしまった時に使っています。

オリジナル洗剤3作品目「エシカルパウダー」:大分県の温泉成分で作られたエシカル洗剤なのに、劇薬レベルで頑固な油汚れをするっと落とします。エシカルノーマルで通常15,000円するレンジフードの清掃が、エシカルパウダーなら1回100円でピカピカになるので、コスパの良さも評判ですが、広がりすぎると商売あがったりな商品です。

左:「タンパク質汚れ用バイオ洗剤」2022年に販売型クラウドファンディングサイト「マクアケ」にて洗剤部門歴代1位となる430万を売り上げました
右:「エシカルパウダー」現場での使用風景を撮影した動画がSNSで100万回以上再生され、現在品薄中

:: Profile ::

本川誠
「きれいごとで きれいにしよう」がタグラインのギルティーフリーなハウスクリーニングチェーン、株式会社エシカルノーマル代表。2021年、目の前で泣いている人がいないゆえに後回しになりがちな日本の環境問題に、専門家を集めて日常生活に密着したハウスクリーニング業界から挑むスタートアップを立ち上げる。普段は常にTPOに合わせたTシャツを着ている変な人。Tシャツは基本オーガニックコットン&着古したものは布封筒にリメイクし、エシカルノーマルのギフトカードを贈る際に使っている。
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おすすめエシカル

【エシカルノーマルグッズ】初のオリジナル洗剤「タンパク質汚れ用バイオ洗剤」:特殊清掃現場で使われる、強烈な血液や体液、襟袖の汚れなどを分解する環境負荷がない酵素洗剤。少量の水で汚れを落とせるので断水している被災地でも活躍します。私は出張時に携帯してホテルのベッドに鼻血を垂らしてしまった時や、上着につけ麺の汁が飛んでしまった時に使っています。

オリジナル洗剤3作品目「エシカルパウダー」:大分県の温泉成分で作られたエシカル洗剤なのに、劇薬レベルで頑固な油汚れをするっと落とします。エシカルノーマルで通常15,000円するレンジフードの清掃が、エシカルパウダーなら1回100円でピカピカになるので、コスパの良さも評判ですが、広がりすぎると商売あがったりな商品です。

「タンパク質汚れ用バイオ洗剤」2022年に販売型クラウドファンディングサイト「マクアケ」にて洗剤部門歴代1位となる430万を売り上げました

「エシカルパウダー」現場での使用風景を撮影した動画がSNSで100万回以上再生され、現在品薄中

ハウスクリーニング業界のファーストペンギンになるまでのストーリー


私は2008年に新聞販売店を創業し、2014年から新聞配達の空き時間を利用して、シニアや障害者向けの日常サポートを始めました。職業柄、折り込みチラシは入れ放題だったのですぐに依頼が入るようになり、30分500円で庭の草むしりや買い物代行、掃除など、介護保険の手の届かないようなことを何でもやっていました。

その中で一番依頼が多かったのがクリーニングです。最初は、拭き掃除や掃除機程度でしたが、どんどん要望がエスカレートして行き、素人ではできないレベルにまでなってきました。そこで、しっかり学ぶと決めて、修行を経た1年後の2015年にハウスクリーニング事業を立ち上げました。

しかし、使用していた洗剤や薬剤は、混ざると塩素ガスが発生し、吸い込むと息ができなくなったり、味覚がなくなったり、声が出なくなったり、肌に着いたらただれたりすることが頻繁にありました。よっぽど毒性の強いものなのだろうと思いながらも、お客さんにお金をもらう以上、きちんと綺麗にするためには仕方がないと騙し騙しやっていました。

そんな一年後のある日、運転中に目の前の車の窓からごみを外に投げ捨てている人を目撃し、とても嫌悪感を抱きました。(私も昔はしていましたが〈笑〉子供が産まれてからは一切しなくなりました。)

その人はどういう心情だったのかを考えた時に、自分の車の中は綺麗にしたいけれど、そこから一歩外に出た道路は自分には関係のない世界なのだろうと思いました。そして同時に、自分のハウスクリーニング事業がその人のマインドに重なってしまいました。

一つの家を綺麗にするためにスタッフの健康を脅かし、環境を汚し、外に色々なものを押し付けて、それで良いと思っている価値観が、その人と何が違うのだろう……と、嫌悪感が自分に返ってきました。

恥ずかしさとショックで、ハウスクリーニングをやめようとも思いましたが、業界はそのやり方がスタンダードなので、私がやめても一社減るだけで何も解決しません。そこで初めて解決する側に周りたいと思いました。

私はそれまで十何年と、新聞配達をしながら地域課題解決をしてきましたが、環境問題には正直興味がありませんでした。なぜなら、困っている人や泣いている人の顔が見えないので、実感が湧かず、緊急性があると感じなかったからです。

でも、自身の体を壊した時に、全ての経済活動や社会活動の土台は人間の「健康」で、地球にとっての土台は「環境」だと気づきました。環境が健康でなければ、社会も経済も成り立ちません。これを客観的に俯瞰して根本解決していかなくては、本気で未来が大変なことになると思いました。

そこで、日々の生活の中で何ができるか考えた時に、一番向いていると思ったのが仕事でソーシャルインパクトを作ることでした。今までやってきたハウスクリーニングなら知識があるので、業界の価値観を自社から変えられると決意し、2021年6月に設立したのがエシカルノーマルです。

エシカルノーマルの集合写真

ハウスクリーニング業界の現状とエシカルノーマルの使命


まず、洗剤や薬剤が体に悪いことは身をもって実感していましたが、環境にどれくらい悪いかは想像の世界だったので、一度しっかり調べたいと思い、環境調査会社に依頼しました。代表的なものを23種調べてもらうと、20種類は劇薬という想像以上に悪い結果でした。

下水処理場が優秀だから家庭排水で流しても処理可能なのかと思いましたが、下水処理場の普及率が約80%、処理能力も約90%なので、10%~20%はそのまま河川に流れてしまってるということが分かりました。

また、日本は工場排水に関する規制はありますが、家庭排水には規制がありません。洗剤を作るメーカー側に規制があるので、本来規制を通った商品しか使わないはずの家庭から、劇薬を海洋へ流してしまう唯一の業種がハウスクリーニングなのです。

一応、業界内に洗剤や薬品は中和して流す、汚水は持って帰るというルールがありますが、例えばトイレやお風呂を洗浄した汚水を持って帰ることは物理的に不可能です。

幸か不幸か、ハウスクリーニング業界は2013年頃から急激に需要が増えました。当初は大手が個人事業者を雇うことが主流でしたが、2017年頃から5年で約1,000倍と爆発的に増えたのがポータルサイトで個人が独立して働くスタイルです。

しかし、このようなスタイルはサイト上で上位表示されないと集客が難しいため、価格を従来の約半額に設定しています。しかも、YouTubeで得た知識レベルの人たちがほとんどで、知識不足で劇薬を大量に使い、スピードと数勝負の人たちが横行しています。これは一つの社会課題です。

お客さんがハウスクリーニングを選ぶ基準も、どれだけ値段が安いか早いかがスタンダードで、「環境に良い」というワードで選ぶ人はまだまだ少数派です。しかし、どの業界も3割を超えると業界全体が変わるという法則があります。私たちは、まずは3割エシカルな指標を持つ人を増やし、エシカルをノーマルにすることが使命です。

エシカル・コンシェルジュ 講座について


仕事でエシカルを名乗るからには根本からきちんと学びたいし、エシカルな知識があるお客さんが多いので会話についていくために、体系的に学んでおきたい、と思っていた時にエシカル・コンシェルジュ講座を見つけました。

受講してみると知らないことだらけでしたが、今までの点と点の知識が繋がっていくような時間でした。11期で印象に残っている回は、アニマルライツセンター代表理事 岡田千尋さんの「地球を分け合う動物たちに配慮する2つの方法」です。お肉が好きなので日常生活では目を背けてきましたが、畜産動物の現実の残酷さを知ってとてもショックでした。

また、最近13期のボーダレス・ジャパン 代表取締役社長 田口一成さんの「社会を再構築するソーシャルビジネスの作り方 ~社会起業家たちの挑戦~」の回を単発で受講しました。ソーシャルビジネスをずっとやってきた人間としては、田口さんは神様のような存在です。田口さんが登壇するイベントへ行き、直接ご挨拶したこともありますが、今回改めて講座を受講できて良かったです。


起業家は常に行動し続けることが重要だと言われています。でも、何でも学びながら走りながらではなく、時には体系的にきちんと学ぶことも必要で、もっと大切にしなくてはいけないことだと、講座を通して感じました。

社会課題の根底は全て繋がっています。モグラ叩きのように、一つ叩いても違うところが飛び出してしまうなど、根底をどう解決していくかは、なかなか難しいです。でも、洗剤のことだけ考えてエシカルノーマルをやっていた時と、エシカル全体を俯瞰して学んだ後では、やはり打つ手が変わってきます。

ここを叩くと両隣の問題が解決できるとか、ここと手を組むと同時に平らにできるとか、様々な角度からアイディアが浮かぶようになりました。

また、学んだことをシェアすることで、強制はしていませんが、ペットボトルがタンブラーに変わったり、洗剤や掃除道具を積んでいる車にゴミ拾いのトングが常備され出したり、スタッフが自ら変わっていく姿を見ると、私が目指している姿が伝わり出しているのかなと嬉しく思います。

あくまでエシカルな世界を作るための一つの手法としてハウスクリーニングをしているので、仕事だと割り切って線引きをせず、自分たちの心情を表現していきたいです。

エアコン掃除の様子

お風呂掃除の様子

顧客課題に寄り添いながら、結果エシカルであれば良い


エシカルノーマルを始めて3年目に入り、最近やっと集客ができるようになりました。私たちを写真に撮ってSNSに上げてくれることが頻繁に増えて、エシカルノーマルを選ぶことに誇りを持ってくれている方や、広めたい応援したいと思ってくれる方が増えたように感じます。

また、以前よりも掃除中にお客さんに話しかけられることも増え、最初からエシカルという共通のキーワドで繋がっているので会話が盛り上がりやすいです。口コミも広まりやすいと感じます。

もう一つ確実に変わった事としては、社会課題と顧客課題は別物だと気づいたことです。正義を振り翳しすぎると、知識不足の人は、ただただ責められている気持ちになり、環境問題解決にはお金を出しません。会社として解決したい問題があっても、お客さんにはメッセージを変えてワクワクするような遊び心を大切に伝えるようにしています。

難易度は高いですが、きちんと顧客課題に寄り添いながら、売れれば売れるほど社会課題解決になる導線をデザインできている会社が、社会課題と顧客課題解決の両立ができていると思います。

SDGsビジネスコンテストで優勝した際にミュージシャンの運営委員長に作ってもらったオリジナル曲「エシカルペンギンズ」スタッフや家族みんなで踊っています!

エシカルノーマルの課題


エシカルノーマルの洗剤や薬剤は、独自に開発した特別なものを使っているので通常より原価が高いです。しかも、通常のものと比べると綺麗にするのに1.2倍くらい時間がかかるので、その分人工代(スタッフ一人当たりの1日の仕事量にかかる費用)がかかります。

でも、エシカルだから高いというのは顧客課題に寄り添っていないので、最大手と同じくらいの値付けをしています。今ある既存の業界の中では高い方でも、それを超える価格にはしたくないというのがポリシーなので、現状では給料を上げにくかったり、ボーナスがまだ出せなかったりと、スタッフにそのしわ寄せが生じていることが課題です。

ビジネスモデルに矛盾をはらんでいるため、グリーンウォッシュになりそうな時もあります。でも、それではエシカルノーマルを起業した意味がないので、一つひとつ知恵を絞って工夫するしかありません。

例えば、名刺を作る時は、WEB名刺やバナナペーパーなど様々な案を出し、議論を重ねましたが、最終的に「捨てられない名刺」を作ることになりました。ペンギンの形の切り抜きを入れて、半分折りにするとペンギンが立っているように見える名刺です。

可愛いので捨てられにくく、お客さんの玄関に置いて帰ることで「また呼んでね」というメッセージの販促ツールとしてそこに居続けてくれます。このように、どうやって自分たちの思いと経済合理性を重ね合わせていくかをずっと考えています。

ペンギンが立っているように見える名刺

エシカルノーマルの課題


ビジネスにおけるファーストペンギンとは、リスクに対してチャレンジしていくカッコいい起業家のようなイメージがあります。でも、本来自然界のファーストペンギンとは、天敵がいないか確認するために最初に飛び込まされる生贄の役です。カッコよくも何でもなく、誰もやらないから自分が犠牲になる、その表現が私たちにはちょうど合っていると思っています。

そんなファーストペンギンとしての今後の目標は、ソーシャルインパクトという意味でも仲間をどんどん増やすことです。2023年5月からフランチャイズを募集して、2024年1月時点で8店舗開業しました。今後、これを100店舗、200店舗に増やしてエシカルノーマルを広げていきたいと思っています。

その中で意識していることは、100勝つために、どこかの会社を100負かすのではなく、お互い50ずつ勝てる方法を模索することです。フランチャイズに入った人が損しないようにバランスは必要ですが、技術や知識を提供したり、仲間にはならなくても、それを真似できるような場を提供したりできたらと考えています。

文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2024/2/29

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