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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】
#14 菌まで含めたエシカルな社会を目指す
女性起業家サポーター\ 福本良子さん /
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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。
第14回目は、5期修了生の福本良子さんです。川崎市を中心に様々な活動を精力的に行い、忙しいながらもエシカルlifeを心から楽しんでいる福本さん。食を中心としたこれまでの活動から、新たにスタートしたビジネス界への挑戦など、貴重なお話をたくさんお伺いしました。
::Profile ::
福本良子
かわさき生活クラブ生協・理事。出産をきっかけに「子どもを元気に育てるには、何を食べさせると良いか? 」の問いから食への探求が始まる。その中で、生活クラブ生協に出会い、食品の裏側や農業・畜産などの第一次産業の現状、社会環境について消費者として学び発信し続け、地域での社会貢献活動がライフワークとなって10年目。最近チカラを入れているのは川崎市内でのローカルSDGsマルシェ開催・オーガニック給食活動・川崎市市制 100 周年記念事業みどりの共創プロジェクトなど。地球環境と社会を良くする女性起業家サポーターとしても活動をスタートした。
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【生活クラブ生協でのお買い物】
約10年間、深く関わって分かったのは、扱っているどの食材も「食べることでSDGsに繫がる」ということ。子どもに食べさせたいと思える品質が確かなものを手に届きやすい価格で買えるのも魅力の1つです。
左:市場直送の産地が明らかな鮮魚の刺身で子どもたちがお寿司をにぎりました
右:砂糖の代わりにマスカットで甘みを付けた国産トマトのケチャップは絶品。容器はリユースのRビンです
【リサイクルせっけん「きなりっこ」】
「きなりっこ」は、川崎市内の工場「せっけんプラント」が、川崎市の小学校から廃食米油を回収してせっけんに生まれ変わらせ、また小学校に届ける役目を担っており、小学校の給食室で皿洗いに使われています。地域の中で、こんなにもぐるぐる循環しているせっけんがあると知った時は驚きました。しかも、この仕組みは、約40年前の主婦の方々が作り上げたせっけん運動の成果だそうです。我が家の洗濯や掃除にも大活躍。工場にも幾度か足を運び、「きなりっこ」の使い方を広めている地域団体「かわさきかえるプロジェクト」の一員にもなりました。
* 川崎市は、遺伝子組み換え課題の解決のため学校給食に米油を使うと決めています
「生活クラブ」との出会い
私は横浜で生まれ育ち、新卒でITベンチャー企業に入社後、コンサルタント業務をしていました。結婚を機に川崎に住み始めて12年目。2011年と2013年の出産をきっかけに子どもに何を食べさせるか悩んだ末、10年程前に「生活クラブ生協(以下:生活クラブ)」と出会いました。
始めの5年間は店舗型生協の「生活クラブデポーたかつ」の運営委員として活動し、その後から現在に至るまでは「かわさき生活クラブ」の理事を務めています。
生活クラブは「生活協同組合(以下:生協)」の中の一つです。生協は、組合員が出資者であり経営者。利益の追求をせず、組合員の生活の質の向上を最大限高めることが目的の組織で、「生協」という用語は、株式会社やNPO法人、一般社団法人と言葉の単位が同じです。
生活クラブの他にも全国に500以上の異なる生協がありますが、生協の違いを理解している方は少なく、その点も広めたいことの1つです。また、生協の中で、生活クラブは生産から廃棄まで全ての工程で、現代と次世代のことまで考えて、生産者と消費者が横並びになって一緒に作っているところが特徴です。
「予約共同購入」という、無駄を出さない生産&消費体制が基本で、オリジナル食材(消費材)は、例えば環境や身体への悪影響が心配される添加物を使わないなど、何らかの社会課題解決のために存在しています。
このことに共感して買う人が増えると、買い物が投票となって需要があることを証明でき、一般市場にも良い影響を与えることができます。さらに、元々利益を追求しない協同組合なので、持続可能な生産ができる価格を話し合いで決めて、広告にお金をかけることなく、組合員が自ら動いてコミュニティを広げています。
これらの仕組みには50年の歴史があるというから驚きです。
お店が閉所の危機!? エシカル・コンシェルジュ講座に辿り着いたきっかけ
生活クラブで組合員活動を始めた頃、関わっていたお店「デポー」が赤字で閉所の危機に瀕していました。存続させるためには、組合員の力でどうにか黒字にしなくてはいけませんでしたが、本当にこのお店が必要なのか分からなくなってしまうほど、究極に追いやられていました。
そんな時に出会ったのが、SDGsやエシカル消費などについて書かれた末吉里花さんのインタビュー記事です。お店存続のための施策として始めた組合員向けのメルマガを書くにあたって色々調べる中で、デポーで買い物することは正にエシカル消費であり、買い物をして社会を応援できることはやっぱり大事なことだと思い直すことができました。
同時に元気が出て、もっと勉強したいと思い、2019年5期のエシカル・コンシェルジュ講座に飛び込みました。講座を通して学んだことをたくさんメルマガで発信したことで、メルマガを見て買いにきましたという方がいたり、お店を支えたいという濃いファンが増えたり、直接どれくらいの成果があったかは分かりませんが、お店存続に少し貢献できたかなと思います。
お店は、デポーを愛するたくさんの組合員の力で今も存続することができています。また、これは2020年にコロナ禍に入ったことで身体に良いものが欲しいという加入者が一気に増えたことも大きく影響しています。実は、社会の危機が起きると生活クラブを選ぶ人が増えるということは時代が何度も証明しているそうです。
活動の原点であり、ヘビーユーズしている「デポー」。息子も小さい頃から通い続けています
これからは綺麗事でビジネスが勝負できる時代!
エシカル・コンシェルジュ講座は本当にどれも面白かったのですが、中でもインパクトが強くて今でも度々思い出すのは、当時、博報堂DYホールディングスグループ広報・IR室 CSR グループ推進担当部長だった川廷昌弘さんの講座です。
「SDGsで自分を変える、未来が変わる」をテーマにお話しされていて、仕事としてただ語るだけではなく、SDGsやエシカルを日常生活や自分の家造りなどのプライベートにも落とし込んで行動されている姿が印象的でした。
「今まで社会に良いことは戯言だと思われていたけど、これからは綺麗事でビジネスが勝負できる時代であり、単なる変化ではなく変容(思いっきり変化)させる時代」と仰っていたのが、ずっと心に残っています。これからはお金のためだけじゃない時代が来ているということに、一消費者として凄くワクワクしました。
講座後の川廷さんとのツーショット
協同組合の発祥はイギリスと言われていますが、実はそれよりも少し前に日本人の二宮尊徳(二宮金次郎)が既に似たような組織を作っていたことを講座受講後に知りました。「経済なき道徳は戯言であり、道徳なき経済は犯罪である」と言う二宮尊徳の教えは、川廷さんのメッセージと通ずるものがあると思います。
講座全体を通して、食の分野だけでなく、ファッションやアニマルウェルフェア、電力、銀行など、さまざまな分野でやれることがいっぱいあるということが分かりました。
学んだことを周りにも伝えたい気持ちはありましたが、まずは自分からできることをやっていって、その姿を見た子どもたちや周りの人に何か良い影響が起こせたらと、全方位に向けて暮らしを変えていきました。
ファッションは、なるべくオーガニックコットンや麻を身に着けるようになりました。フェアトレードのパイオニアである「ピープルツリー」の洋服は、ほぼ毎日着るほど愛用しています
川崎市での様々な活動 理事になるきっかけ
講座を受講した年の終わり、生活クラブでの活動が5年間目に突入した頃、かわさき生活クラブの理事に推薦していただきました。凄く悩んで一度はお断りしましたが、せっかくの機会なので恩返しの気持ちも込めてやってみようと決意しました。
今まではデポーという「お店」の活動が中心でしたが、理事になると川崎市という「市」の単位で活動ができるため、福祉や環境などもっと広い視点で色々なことが学べるかもしれないという期待がありました。理事の任期は2年間ですが、気づけば5年目と只今3期目を務めています。
現在、理事として、川崎市のみどりとコミュニティを広げていくための新事業「川崎市市制 100 周年記念事業・みどりの共創プロジェクト」に関わっています。みどりと触れ合って、育てて、食べて、コミュニティを育成していくための場所を市内に増やしていこうというという構想で、行政と様々なビジネスをやっている事業者と共創して進めています。
また、今年の9月から仲間と衣類のごみを川崎市の高津区内で循環させようという動きがあったり、オーガニック給食活動が3年目に入り軌道に乗ってきたり、暮らしている地域のあちこちで面白いことが起こり始めています。どの活動でも、エシカル・コンシェルジュ講座で学んだことがベースの一つとなり、とても役立っているので本当に感謝しています。
子どものパワーを最大限に引き出せるのは毎日の食事
その他の活動として、今年の3月で一旦卒業しましたが、一般社団法人食べるトレーニングキッズアカデミー協会の「食べトレ」のインストラクターとしても講座を開催していました。食べトレは「食の大切さを周りのママたちに伝えたい、でも何だか押し売りになってしまい難しい」と思っていた5年前に出会いました。
この講座は、「食の力を使いこなし自らの夢を叶える子どもたちを育成する」という理念の元、まずお母さんがその方法を知り、子どもに伝えるためのものです。多くの家庭が塾代や習い事にお金をかけますが、本当にその子の能力を開花させるためには、もっと食の質を上げるためにお金を使った方が良いという当時の代表理事のギールさんの考えがヒットしました。
例えば、極端な話ですが、どれだけ勉強しても受験当日風邪を引いてしまったら、欠席もしくはフラフラな状態で試験を受けても力を発揮できません。その子が持っているパワーを最大限引き出してあげることが一番大事で、それができるのは毎日の食事です。それさえできれば、子どもの能力は勝手に伸びていくと仰っていて、本当にその通りだと思いました。
生活クラブに入ってからは食の質が上がって、我が家の子どもたちは大病やインフルエンザなどに罹らなくなりましたが、アレルギーなどの慢性的な症状は取れず、病院にちょこちょこ通っていました。
食べトレで学んでみると、食材一つひとつも大事ですが、それよりも「自分の体がどういう仕組みなのか」、「自分の体にとって必要な食べ物や、季節によって違う食べ物の選び方や食べ方」を知ること、それ以上に「出す力を育てること」が大事だということが分かりました。
「人間のお腹は畑、血液は海」と考えると、それをどれだけ綺麗に良い状態にできるかが、いかに大切かということが良く分かります。
こうして子どもたちの体の作り方を理解した上で、食卓に出すものを変えたら、ちょっとした病気もなくなって、ここ数年は病院に行っていません。娘は去年受験生でしたが、学校でインフルエンザが流行っていて休む友達がたくさんいる中、一回も欠席することなく、無事に受験を終えて合格することができました。
菌ちゃん農法を実践! 「天空ほったらかし農園」
2020年からは、住んでいるマンションの屋上のレンタル畑を借りることになり、吉田俊道さんが提唱する「菌ちゃん農法」を学びに家族で長崎の「菌ちゃんふぁーむ」へ行って来ました。
草を重ねて畝を作り、微生物がいっぱいのフカフカな土を作るのが特徴の農法で、畑を借りた1年目は本当にほったらかしで、雑草を生やし続けました。その名も「天空ほったらかし農園」です。周りから見たらお金払って借りて何をやっているのだろうと思われたかもしれません(笑)。
縦に長く生える雑草から始まり、「刈って土に戻して」を何度か繰り返していたら、小さな丸い双葉が生えるようになり、縦に長く伸びる雑草が生えなくなりました。
その状態を吉田先生に確認したら「成功だよ」と言ってもらえて、2年目からは野菜を育て始めました。現在4年目に突入し、何度も色々な野菜を育てる中で、土の状態が良くなると、虫がつかない元気で健康な野菜ができると身をもって実感しています。
左:小さな丸い双葉が生えるようになったところにカブが育っている様子、右:カブがなっている様子
左:ミニトマト、右:ナス
野菜の他にコットンやハーブも育てています。今年はレモングラスとローズゼラニウムが一番元気でいっぱいなっているので、ハーブコーディアルを作って毎日飲んだり、オイルにしてオリジナルバームを作ったり、友人のスイーツ作りに使ってもらったり、色々な活用方で楽しんでいます。
レモングラスとローズゼラニウム
ローズゼラニウムのハーブコーディアル
植物と触れ合うことから通じて、今後は地球に感謝を伝えるような活動もやりたいと思うようになりました。
新しいことにチャレンジ! シェア別荘とビジネスの世界
今年の5月からは色んな偶然が重なり、2拠点生活を始めました。メインは川崎ですが、長野県の八ヶ岳にも拠点を作り、月に1,2回通っています。お盆には10日間、八ヶ岳の暮らしを家族で楽しむことができました。この別荘は、他の登録家族が一緒に泊まっても良いことを条件に登録制の「シェア別荘」として運営しています。
都会の生活も大好きなのですが、自然の中で「暮らす」経験も積み重ねたいという思いがありました。高度が1,400m以上ある場所なのでとにかく空気が綺麗で、行くだけで毎回「生き返る」と感じます。
また、自給自足に近い暮らしをしている人たちともコミュニティを作っていきたいと思っていて、2拠点生活はエシカルの実践の一つとして考えていています。最終的な夢は、人と動物、植物や菌までも全てが「win-win-win-win」になる循環共生世界の実現です。
八ヶ岳のシェア別荘の様子
さらに、2拠点生活と同時期に“ギバーズゲイン(与えることでビジネスを回していく)”という理念に基づいて活動している「BNI JAPAN」で、会社の経営者たちが50人ほどの集まるチームに入り、毎週定例会に参加しています。
私がやりたいことで一番貢献できることは何かを考え、「地球環境と社会を良くする女性起業家サポーター」というカテゴリーを作りました。環境や社会を良くしたいという想いをプロジェクト化して実現させる、片腕サポート事業です。
これまでたくさんの女性の活動を支援してきた経験から、一人ではうまく進められなかったり、壁につまずいてしまったりした時に、二人三脚で伴走する役割で貢献していきたいと思っています。
社会を良くしていくために、仲間を見つけてコミュニティを動かし地域活動をすると、お金は手に入らないけれど、お金では買えない暮らしを豊かにしてくれる大切なものが手に入りました。想いへの共感と納得で、多くの人が共に行動してくれて、とても幸せなご縁に囲まれていると感じます。
このように、何事も「対話」が全てで、対話を重ねることで物事は動き出し、良い結果が生まれると実感を伴った体験をしてきました。一方、講座で学んだ通り、さまざまな社会課題の多くは、ビジネスの中で引き起こされています。きっと、それらを解決するのも「対話」なのだと思います。
だからこそ、「ビジネスの土俵でもご縁を繋いで、大人たちが楽しく生き生きと奪い合わずに与え合うことで、楽しいことをもっと色んな人たちと手を取り合って実現できるようにしたい」そんな気持ちからビジネスの世界にも一歩を踏み出しました。その先に、目指している「菌までエシカルな社会」があると思っています。
文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2024/11/4