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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】
#15 癌になったことがきっかけで「SDGsへの貢献」が使命となった
\ 入江雅樹さん /

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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。

第15回目は、10・14期修了生の入江雅樹さんです。病気をきっかけにSDGsに貢献すると決めて人生が一変した入江さん。人権問題解決に注力するため、興味の薄い環境分野にも理解を深めようと積極的に行動するなど、新しいことにどんどん挑戦する姿が印象的でした。

::Profile ::

入江雅樹
奈良県在住。10代の時にイジメや犯罪を生んでいるのは人と人との間にある上下関係・上下意識だと感じる。身近な所からそれらを生まないために、「相手が誰であれ対等に接する」ことを始めるが、たった1人での闘いは厳しく、1年程で挫折。決心(良心)を裏切った以後は死んだように生きる。30代に入り、自身が癌になったことが転機となり、助けてもらった命は世のため人のために使うのが筋ではないかと感じ、SDGsへの貢献を使命にする。現在は、障害者施設で働きながら社会福祉士の資格取得を目指しつつ、ソーシャルビジネスの立ち上げを検討している。

おすすめエシカル
【本】
嫌われる勇気』:「より大きな共同体の声を聴け」「全ての人は対等である」と書かれているところが推しポイントです。人は皆、大小様々な共同体に所属しています。現在の環境問題は、人類が小さな共同体の利益を優先してきた結果であり、「全ての人が対等である」という考えが世界で当たり前だったならば、人権侵害は起こらないと思います。

SDGsがあるということは、世界にそれだけ多くの問題があることの裏返しですが、この本にある思想が世界で当たり前だったならその問題はそもそも起こってないのではと思えてなりません。

いくつもの壁にぶつかりながら 19歳、児童買春撲滅への挑戦』:タイの15歳の女の子が売春宿に売られ、21歳でエイズが原因で亡くなった。その間に彼女が得たお金は日本円にしてたったの1万円。著者の村田さんが大学の授業でこの話を聞いた時に着ていたワンピースは1万円で買ったばかりのものでした。村田さんは彼女と自分がなぜこんなに違うのか考えたところ、「生まれた国が違うだけ」だと思い至りました。

それを機に人身売買問題解決の取り組みを始め、カンボジアの子どもを置く売春宿をほとんどなくすことに成功。現在はインドでの人身売買問題解決と日本の児童養護施設退所後の若者支援に取り組まれています。「生まれた国が違うだけ」という思いは、逆の立場で生まれていたかもしれないと想像することで、何かしなければと自分を行動に駆り立てることに繋がると思うので、すごく大切だと感じています。

癌がきっかけで探していた命の使い道


私は大学を2年留年して卒業後、20代は実家に引きこもり、心療内科に通いながら、たまに短期バイトで働くような生活を過ごしていました。30代になって長期バイトを始めましたが、32歳の時に精巣にできるはずの癌が胸の奥にできるというイレギュラーな癌になり、生存率は50%と宣告されました。

幸い、抗癌剤を打ち、4ヶ月の治療で完治することができました。これが転機となり、それまでは自分の置かれている状況に対して後ろ向きにばかり考えていましたが、せっかく助けてもらった命なのだから、何か良い「命の使い道」を探したいと前向きに考えるようになりました。

その後、20代はほとんど働かずに親に負担をかけたので、お金を返すためにまずは工場で働き始めました。返済が済んだら何をしようかと模索している中で辿り着いたのが「SDGs」です。末吉里花さんの『はじめてのエシカル』を拝読したり、色々なSDGs関連の本を読んだりする中でピンとくるものがあり、「SDGsへの貢献」を使命とすることにしました。

また、同時期にFacebookの「CLUB SDGs」というグループに入りましたが、そこでの話題に全く付いていくことができませんでした。もっと勉強しようとエコ検定やSDGs検定などを受けましたが、それでも全然分かった気がしませんでした。

そこで、誰かに教えてもらう必要性を感じ、2022年の10期のエシカル・コンシェルジュ講座に申し込みしました。決め手はCLUB SDGsの中で名前が頻繁に上がっていた、大学院大学至善館教授、幸せ経済社会研究所所長の「枝廣淳子」さんと、国立環境研究所 地球システム領域 副領域長 東京大学 客員教授の「江守正多」さんが、講師をされるということでした。

特に興味のある人権問題


エシカル・コンシェルジュ講座を受講して、一番影響を受けたように感じるのは末吉里花さんの「エシカル革命~新しい幸せのものさしをたずさえて~」の講座です。エシカルと親和性が高いと仰っていた「お天道様が見ている」という考え方は、10代の頃、指針にしていた時期があったので、それを肯定されたようで嬉しかったというのもあります。

また、日本はSDGsの目標の内、環境に対しての取り組みは進んでいても、人権に対する取り組みは手薄になっていると仰っていました。CLUB SDGsでも環境に関する投稿がほとんどで、人権に関する投稿が少なかったことを疑問に感じていたので、それを聞いて納得しました。私自身が20代の頃にしんどい思いをしたため、人権の分野に特に興味があります。

そのため、英国エセックス大学ヒューマンライツ・センター フェローの藤田早苗さんの「世界から見たヒューマンライツ」の講座からもたくさんの影響を受けました。例えば、職場において、馴れ合いではなく批判すること(Critical)は大事だと思うようになったり、国連の難民支援機関を支える日本の団体で少し働いたり。

その他にも、国際人権法についての本を読んだり、『牛久(うしく)』という日本の入管行政の現状を描いたドキュメンタリー映画を観に行ったり、BBCのニュースが分かるようになりたいと英語の勉強をしたり、長崎の平和記念公園に行ったりしました。

長崎の平和記念公園にて

登山に挑戦! 気になったことはとにかくやってみる


全講座を通して、講師の方はもちろん、受講者の方も熱量が凄くて、講座中のチャットのコメントや、交流の場のSlack(現在はLINEのオープンチャットに移行)の投稿を見ていても、前向きに取り組んでいる人は目立っていて、凄いなと見ていました。

自分も何かしなければという気持ちになりましたが、経歴に対する劣等感が強く、中々行動に踏み出すことができませんでした。何から始めれば良いかも分かりませんでしたが、まずは気になったことをとにかくやってみようと思いました。

SDGsの中でも人権問題解決に注力すると決めているため、今の課題は、環境問題も人権問題だと理解することです。環境分野に興味が薄いと感じていたので、登山を始めました。自然と触れ合うことで興味が湧くのではないかと思ったからです。

これまでに、奈良で4箇所と富士山を登りましたが、とても良い運動になって、達成感もあり面白いし楽しいです。今のところ、環境問題に興味が出てきたような変化は感じられませんが、今後、感覚や気付きに変化があることを期待しています。

富士山に登った時の景色

また、人とのコミュニケーションには苦手意識がありますが、エシカル協会主催の「エシカルフェスタ2023」のボランティアに参加したり、14期の特典イベントのフィールドトリップで、「日本初のゼロ・ウェイストなスーパーマーケット“斗々屋” ツアー」に参加したりなど、積極的に行動するようになりました。

エシカルフェスタ2023のバリューブックスが運営する移動式本屋プロジェクトBOOKBUSのブース

「社会福祉士」の資格取得を目指して


10期のエシカル・コンシェルジュ講座の受講後は、ハローワークの公共職業訓練で約半年間、介護福祉士実務者研修を受けていました。10代の頃に対人援助職に就きたいと思っていたこともあり、福祉の仕事に興味がありました。

ちょうど訓練期間が終わりに近づいてきた頃の2022年7月、安倍元首相の銃撃事件が奈良市で起こりました。とても身近な場所だったことや、福祉について学んでいる最中だったこともあり、色々なことを考えさせられました。

犯人のそれまでの歩みを見ると大変な人生だったことが考察できます。社会として彼を援助できていたら事件は起こらなかったのではないか、このような事件を起こした人たちの援助ができないか、などと考えていました。そのタイミングで、障害者施設での募集があり働くことにしました。

障害者の方たちとの意思疎通は、初めはとても難しく、苦戦することも多かったですが、段々と入所者の方の言いたいことが分かるようになっていきました。現在2年ほど働いていますが、入所者の皆さんはとても可愛いくて、この仕事が大好きです。今後は、もっと社会の問題を知りたい気持ちもあり、「社会福祉士」の資格取得を目指しています。

起業のイロハを学んで色んな可能性を探りたい 全ての人が対等な社会へ


エシカル・コンシェルジュ講座を受けたことが様々な転機になったので、もう一度エシカルへの想いを再点火するために、今年14期の講座も受講しました。

学び始めた当初は、個人個人にアプローチするよりも、社会全体の仕組みを変えていく必要があるというお話が中々理解できませんでした。それが今では、起業にも興味があり、ボーダレスジャパンの「ソーシャルビジネスの作り方・社会起業のイロハ」を学べる2日間の集中講座にも申し込みました。

寄付などをする中で、間接的にではなく、直接的に活動や支援をする側に就きたいと思うようになったからです。また、一般就業ができない人向けの就労施設で働きたいという気持ちもあり、起業のイロハを学んで色んな可能性を探りたいと思っています。

また、今でもあらゆる上下関係が様々な社会問題を生んでいると思っているので、「全ての人が対等な社会を作ること」が今後の目標です。

文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2024/11/30

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