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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】
#16 小さなトライが大きな可能性へ
食品スーパーマーケットでサステナビリティの浸透を目指す
\ 髙橋彩乃さん /
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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。
第16回目は、9・14期修了生の髙橋彩乃さんです。講座での学びを、現在働いている会社で最大限に活かしている髙橋さん。どんな雇用形態でも仕事の可能性を広げられることを体現し、ロールモデルになりたいと活躍されている姿は、多くの人の希望になると感じました。
::Profile ::
高橋彩乃
千葉県生まれ、岩手県育ち。外国語やメディカルハーブに関わる学びや仕事を経て現在の食品スーパーマーケットの会社に入社。コロナ渦でエシカルの考え方に出会い本格的に勉強を始める。5年ほど店舗で勤務した後に転職を意識するも、同時期に本社のサステナビリティ推進担当者の公募が始まったため応募。採用後は本社でパート勤務を続けながら、社内外へサステナビリティを広める活動に勤しんでいる。
おすすめエシカル
【ドリンク】
仕事のお供の紅茶やハーブティーは、なるべくオーガニックやフェアトレードの製品を選ぶようにしています。様々なメーカーのものを試すのが好きで、今のお気に入りは、HAMPSTEADのハーブティーとHalpe Teaの紅茶です。
【ビンテージ】
軽くて丈夫な桐箪笥は母方の祖母から、レトロな柄に一目惚れした鍋(左)と、ごみ箱(右)は父方の祖母から譲ってもらったもの。一つのものを長く、大切に使うことの楽しさが娘にも伝われば良いなと思います。
今の日本社会はどうなっているの?
私は学生時代、英語とフランス語の外国語を主に勉強していました。授業の中で、国際協力や、ごみ問題に先進的な北欧の取組み、アフリカ文化などを学んだり、インフラが整っていない地域に対して何ができるか考えたりする機会があり、その当時は正直もの凄く興味があったわけではありませんでしたが、エシカルを理解する根っこのようなものは、その頃から養われていた気がします。
大学院卒業後は、自然に近い素材のハーブやアロマの商品を取り扱う会社で5年ほど販売の仕事をしていました。単純に心地良いから使っているという感じでしたが、オーガニックのものを意識的に使い始めたのはこの頃からだと思います。
その後、妊娠出産を経て、現在働いている食品スーパーマーケットでパートとして働き始めましたが、2020年にコロナ禍の影響で、子どもの保育園が休園になり、仕事に行けなくなってしまいました。動けない時期が続き、不安なことばかり考えていると鬱々してしまうので、良くも悪くも時間ができたことで、興味のあることを調べてみることにしました。
SNSで色々調べる中で、たまたまオススメに出てきた投稿が「日本のプラスチックごみは東南アジアに輸出している」というニュースをまとめたものでした。それを見た時、「今の日本社会はどうなっているのだろう? 」と、とても衝撃的で怒りに似た感情が沸き起こりました。
深掘りしていくと、色々な問題提起をされている方がいて、様々な分野で日本の現状に益々疑問を抱く思いが強くなりました。そこで何か「知るきっかけ」を探しているうちに出会ったのが、エシカル・コンシェルジュ講座です。
できることからどんどん広げることに意識を向けていく
講座の中で一番印象に残っているのは、経済思想家で東京大学大学院総合文化研究科准教授の斎藤幸平さんの「エシカルを大衆のアヘンにしないために」の回です。「個人でやって満足せずに、システムや根っこを変えていかなくてはいけない」という言葉がとても腑に落ちて、深く学びになりました。講座全体の学びをどうやって活かしていけば良いのかヒントをもらった気がします。
かといって、今やっている個人の歩みを否定したり止めたりする必要はなくて、「できることからどんどん広げることに意識を向けていく」という学びも、今の活動に繋がったと思います。9期を修了した後も、毎期半分くらいの講師の方が入れ変わるのが面白くて、ちょこちょこ単発で講座を受けているのですが、斎藤さんの回は必ず受講するようにしています。
本社のサステナブル担当へ異動することに
2022年頃、3年ほど働いていた店舗が閉店することになり、2,3ヶ月以内に、近くの店舗に移動するか、転職するかを決めなくてはいけなくなりました。これを機にエシカルに関係できそうな仕事に就きたいと考え、色々な会社を受けたのですが、娘の保育園との両立が難しく、泣く泣く転職は諦めて、近くの店舗に移動しました。
その1年後に、女性活躍推進の一環として色々な部署の公募が始まり、その中にサステナビリティを会社の戦略に取り入れるサステナビリティ担当者への募集がありました。パートのままで応募が可能だったので、面接を受けて本社への配属が決まりました。転職しなかったことで、今の仕事ができているので、あの時、店舗移動の選択をして良かったと思っています。
面接で仕事内容を聞いた時は、まだ何も決まっていない段階で、逆にやりたいことは何か聞いてもらえたので、会社の取り組みで、こうしたらもっと良くなると感じていたことをストレートにお伝えしました。伝わらなかったらそれでも良いという気持ちだったのですが、その発言をプラスに捉えていただけたことが良い結果に繋がったようです。
配属後に「できる、できない」は別として、やりたいことを思いっきり伝える機会をいただいたので、講座で学んだ知識をフルに使って、“断熱に特化した店作り”や、“店の電力を自然エネルギーに替える”、“近くで畑を借りてソーラーシェアリングをしながら収穫体験やイベントの実施”、“オーガニックやフェアトレードなどの認証商品の普及”など、本当に色々なことを伝えました。
本社で働くことで分かったこと&生まれた希望
異動して1年半が経ちますが、初めの1年は会社全体が何をしているのかを知り、現状把握に努めることが一番の仕事でした。それまでは店舗での接客が主な仕事だったので、旗艦店や都内の店舗など他店舗による様々な取り組みや、本社がやっていることはほとんど知りませんでした。
また、各店舗に寄せられた「お客様の声」で、オーガニックの野菜や平飼いの卵の取り扱いを求める声が増えていることも知ることができました。実際に、商品部の方が要望のあった商品を仕入れてくれていて、お店に行く度に、私が店舗勤務していた時よりもエシカルな商品が少しずつですが確実に増えていると実感しています。
認定 NPO法人アニマルライツセンター代表理事の岡田千尋さんの講座でも「お客様の声」を届けましょうとお話しがあったように、自社がきちんとお客様の声を受け入れてくれていたことに嬉しくなりましたし、伝えることできちんと形になると本社に入ってから実感しました。
しかも、商品部の方も、お客様の声が増えているのを受けて、なぜケージ飼いの卵ではなく平飼いの卵が良いのか、ちゃんと理解してくれていることも知れて、ここで働いていたらもっと色んなことができるかもしれないと希望が生まれました。今後は、商品部の方にエシカルな商品をもっと広めるにはどうしたら良いか相談しようと思っています。
一店舗にいただけでは、他店舗や本社の人がどんなことを考えているかを知ることはできなかったので、今の環境はとても学びになっています。講座でも実感したことですが、SDGsは全てが人権に関係しているのに、人権についてあまりにも知らなかったし考えていなかったと、ここ半年で改めて感じるようになりました。
少し前までは一つひとつの商品に関わることをやりたいという気持ちでしたが、本社にも店舗にも懸命に仕事と向き合っている人がたくさんいると知ってからは、従業員の人たちのために何かしたいという気持ちにもなっています。自身が子育てで大変だったので、同じように頑張っている人の負担が少しでも減るような取り組みもしていきたいです。
ゲームチェンジャーになりたい!
講座で「ゲームチェンジャー」という言葉を聞いた時、大それた目標かもしれないですが「ゲームチェンジャーになりたい」と思いました。ただ、小売業界でゲームチェンジャーになるためには、今の日本や自社でやっている商習慣の概念を全部ひっくり返して新しいものにしないと実現することは難しいと思います。
会社の方針をシフトして、環境や人に配慮した生活や、本当に何が幸せかなどのエシカルな考え方を突き詰めると、消費そのものを否定することになるからです。ものを大事にして余分なものを買うことを控えるなど、「買う頻度を減らすこと」を推進するのは現在の小売業界としてはあり得ません。
他にも、例えば深夜まで働いている方に配慮して夜遅くまで営業すると、ピーク時に比べてお客さんは少ないですが、人件費や電気代がかかる&食品ロスが増えるなど問題が増えます。かといって、その時間にお店を閉めると困るお客さまがいるので、全部を排除することはできません。
でも全部に寄り添っていると色んな矛盾が生じてしまうので、このような矛盾を抱えながら、どのようにバランスを取っていくかが、今の個人的な課題だと思っています。
雇用形態に関わらず色んな仕事にチャレンジできるロールモデルになりたい
正直、今の会社で働くことを決めた時、特別な理由はありませんでした。育児を優先するために家から近くて、ある程度お金が稼げて、身体を壊さないように無理せず働ける環境で、自分にできることだったら何でも良かったのが本音です。でも、子供がある程度大きくなって環境が変わって、講座で学んだ個人の学びをどうにか会社の学びにしていきたいという大きな気持ちの変化がありました。
少し前までは、言いたいことや、やりたいことがあっても、社員になって、ある程度の時間を働いて立場を得ないと実現するのは難しかったと思いますが、今は雇用形態に関わらず一人ひとりの能力を活かそうという風向きに会社が変わってきたと実感しています。
実際、社員になりたいと思ったこともありますが、パートのままで色んな働き方ができることを体現している人はまだまだ少ないので、大袈裟かもしれませんが現在の雇用形態のままで色んな可能性を広げるロールモデルのような存在になりたいと思っています。
同じ立場だからこそ、今の会社の他のパートの方々に寄り添い、勇気付けられるのではないかと思いました。家庭と仕事の両立や、その他に大事にしていること、どれもできるし「どんな雇用形態でもやれることがある」と伝えたいです。
このインタビューのお話を受けた時も、何の肩書きもない、ただのパートで働いている私で良いのかなと思ったのが正直な気持ちでした。でも逆に、特別な人ばかりでなく、普通の人でも講座を受けてちょっとでも想いを形にできると思ってもらえたら良いなと思っています。
文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2024/12/28