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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】

#19 岐阜県郡上市でコミュニティコンポストを始動
小中学校で資源循環教育を行う\ 岡野早登美さん /

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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。

第19回目は、7期修了生の岡野早登美さんです。天職だと思っていた教員の仕事を悩みに悩んだ末に辞めて、郡上市で暮らすことになった岡野さん。コロナ禍も重なり、気持ちがどん底に落ちていたところから、また天職と思える仕事に出会うまでのストーリーをお伺いしました。とても生き生きとお話しされる姿から、心から今の仕事や暮らしを楽しんでいらっしゃることが伝わって来ました。

::Profile ::


岡野早登美
長良川カンパニー教育事業部担当/資源循環教育責任者/完熟堆肥プロジェクト/元公立小学校教員
東京都出身。カンボジアへスタディツアーをした経験から教育の大切さを感じ、都内公立小学校で教員を務める。出産を経て郡上へ移住。郡上の人と自然から沢山の恩恵をもらい、郡上に恩返しがしたいと考えるようになる。2020年、完熟堆肥の知恵に出会い感銘を受けプロジェクトを発足。現在は、教員経験を活かし、学校での堆肥作りを通じた資源循環教育を推進するとともに、教育事業コーディネーターとして一般社団法人長良川カンパニーで学生やインターン生の体験学習の企画・運営を担当。
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おすすめエシカル
【服】
石徹白洋品店:郡上市石徹白地域の伝統技術を活かした服作りを行うブランド。自然の色で染め、「たつけ」という裁縫技術で生地を無駄しない、環境や文化を尊重した素敵な洋品店です。羊毛のズボンは雪国でも温かく、夫や友人たちも多く愛用しています。

群言堂:「私たちは復古創新というモノサシで美しい循環を作る」という会社の在り方が素敵だと思っています。東京駅のKITTEでふらりとお店を見る時間が好きです。

【古着/ビンテージ】
ランドセル:息子が背負っているランドセルは、私が子供の頃6年間使っていた赤いランドセル。素敵なサステナブルランドセルも考えたのですが、実家で息子が私のお古を見つけて背負うと「これが良い」と選びました。年季の入ったランドセルを喜んで背負ってくれて嬉しいです。

ググラボ:郡上市で地域の古民家等で眠っている古道具のリメイク・リユースを手がけるお店。センスが素敵です。

左:石徹白洋品店のズボン、右中:ビンテージのランドセル、右:群言堂のシャツとパンツ

自然豊かな里山、岐阜県郡上市に移住したきっかけ


私は大学を卒業して5年間、東京都公立小学校の教員として働いていました。育休に伴い、夫の仕事の関係でひょんなご縁から岐阜県郡上市の里山で暮らすことになりました。最初は2年間という期限付きのプロジェクトだったので、自然の中でのびのび子育てをしながら、夫のプロジェクトが終わったら東京に帰って教員の仕事に復帰しようと考えていました。

ところが、コロナ禍の影響で夫はリモートワークが可能になり、プロジェクトが終わっても、そのまま郡上で暮らして良いことになりました。郡上で暮らし続けるということは、私は仕事を辞めなくてはいけません。教員の仕事が好きで育休中も免許更新の勉強をしていましたし、社会での肩書きを失うことは自分の存在価値がなくなってしまう気がして怖かったです。

でも、同時に子どもの保育園を探すタイミングが重なり、保育園激戦区の東京へ戻るよりも、子どもが宝のように扱われ、自然豊かな環境のある郡上でのびのび暮らす方が、その当時の三密を避けることが推奨される時代に合っていると思いました。そうして、悩みに悩んだ末、後ろ髪を引かれる思いを抱えつつも、仕事を辞め、郡上で暮らすことを決めました。

現在は、郡上の厳しい自然の中で生き抜いてきた甲斐性のある人たちから、山のことや川遊び、保存食の作り方などの生活の知恵を一から学ばせてもらっています。また、田畑で野菜を作って収穫物を玄関の前に据えてくれるなど、常に何かを生み出す生産者の方が近くにいて、惜しみなく恵みをいただいてばかりです。

保存食の梅干し(左)と、干し柿(右)

「今は問いを生きよ、いつの日か、あなたはその問いの答えを生きているであろう」


エシカル・コンシェルジュ講座を受講したのは2020年の春のこと。きっかけは、大学時代の恩師の聖心女子大学 現代教養学部教育学科教授、聖心女子大学グローバル共生研究所 副所長である永田佳之先生の講座が第一回目だったことです。そこでの学びがとても面白かったので、7期の全講座を受けることにしました。

移住して頼れる親戚もいない場所で子育てをするようになってから、なかなか新しい学びの場に参加したくても、叶わずに涙を呑んでいたことがありました。でもコロナ禍でエシカル・コンシェルジュ講座をはじめ様々な学びが、どこにいてもオンラインで受講できるようになり、とてもありがたかったです。

コロナ禍で地域での集まりや祭りもなくなり孤独を感じていた中、気候変動の時代に同じような温度感とエシカルな視点で、何かをしたいと真剣に考える人たちとの繋がりができたことは、励まされるような思いでした。エシカルという価値観を共有できる人たちは、違う場所にいても心の根っこで繋がれているような心強さがあります。

全講座の中でも特に印象に残っているのは、やはり永田先生の「エシカルな未来への教育とは~予測不可能な時代を生きるための学びのエッセンス~」の回です。最後に先生からいただいた「今は問いを生きよ、いつの日か、あなたはその問いの答えを生きているであろう」というゲーテの言葉に背中を押してもらいました。

その当時、タイムリーなことに「旅と問いの学校」という、“人生をより健やかな旅路にするために、自分の内なる「問い」をもとに「旅」をして、そこからから湧き上がってきた想いを表現して分かち合う学びの場”を運営していました。でも、コロナ禍の自粛ムードに押され、続けることが難しいと考えていた時期でした。

でも、永田先生の講座を受けたことで「やっぱり問いを持つことは大事だ」と思い直し、オンラインを駆使してプログラムを作り直すことができました。今でもそのコミュニティを続けることで、問いを育み続けられています。そして受講後5年の月日が経ちますが、問いの答えを生きている実感があります。

完熟堆肥との出会い


一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン 代表理事の坂野 晶さんの「ごみから辿るエシカル」の回を受講後、「ゼロ・ウェイスト宣言」をした上勝町の取り組みに感化され、早速生ごみコンポストを始めました。近所のおじさんに教えてもらいながら、見よう見まねでやってみましたが、あっという間に虫パラダイスになってしまい、まるで苦行のようでした。

そんな時に、コミュニティコンポストから生産された「完熟堆肥」を教えてくれたのが、エシカル・コンシェルジュ講座でも講師をされたことのある、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんです。安居さんが郡上を訪れた際に持参して見せてくれた完熟堆肥はサラサラで、私のコンポストの土とは全く別ものでした。

詳しく話を聞くと、完熟堆肥はコンポストボックスに入れて完結するのではなく、地域資源の微生物たちの力を借りながら、人が切り返し作業を行い管理することで60℃以上の高温発酵ができ、安心安全な堆肥ができることが分かりました。


そして、その過程で必要な資源は郡上で全て手に入ることが分かり、これならずっと模索していた「自分にも家族にも地球にも優しい暮らし方」の一つの在り方として取り入れることができる気がすると、ピンときました。

自宅に設置しているコンポストの様子

その後すぐに、夫が代表理事を務める一般社団法人 長良川カンパニー主催で、コンポストアドバイザーの鴨志田純さんと、安居さんをゲストに招いて講演会を企画しました。その後、有志メンバーを募り、2021年から長良川カンパニーの活動として「完熟堆肥作りプロジェクト」を始動します。

思い返すと、郡上の自然や人々から、たくさんの恵みを受け取るばかりで負債感を感じていましたが、郡上の資源を受け取り、コミュニティを作り、発酵させ、完熟堆肥を作ることで初めて私も生産者になれた気がしました。

長良川カンパニーの完熟堆肥作りプロジェクトの流れ

仲間と完熟堆肥を作る様子

広がる教育の輪 資源循環教育


2023年からは地域の小学校で、今までの教員経験を紐づけて、暮らしの延長で感動した知恵と実感の伴ったSDGs教育として完熟堆肥作りを通じた「資源循環教育」をさせてもらっています。


現在は小学校と中学校の2校の総合学習の中で完熟堆肥を作りながら、環境や地域の未来について考える教育の輪が広がっています。

堆肥を地域の畑に届けるという循環型の暮らしにおける基盤を構築し、畑の土壌を育み、関わる人の心を耕しながら、美しい川を次世代へ繋いでいくことがプロジェクトのミッションです。子どもたちがともに手を動かし、堆肥と向き合う中で様々なことを考え、それを発信するパワーの熱量に希望を感じています。エシカル仲間が増えた気持ちです。

「資源循環教育」で、ほしい未来について考えている様子

「資源循環教育」で、生ごみを堆肥化している様子

5年前は負債感と孤独な気持ちでいっぱいでしたが、今はこのプロジェクトを運営することで満たされ、「私にできる郡上への贈り物は何だろう? 」という問いの上を歩いている実感があります。いつかは資源循環教育プログラムを、市を飛び越えて興味のある地域や学校に、もっと広げていきたいと思っています。

「資源循環教育」を受けた子どもたちの感想

生徒たちの取り組みは、中日新聞でも紹介されました 

私が公立学校で道徳推進教諭をしていた当時の道徳の学習指導要領は、4つのレイヤー「対自分、対人、対社会、対自然」に分かれていて、6年間で系統立てて、満遍なく深化させながら道徳性を大事に思えるような心を育んでいくというものでした。

でも、完熟堆肥コミュニティのプロジェクトを今の暮らしの中に当てはめると、分断せずに全部繋がっていて、一つの行動をすることで全て考えることができます。机の上で切り離して学ぶだけでは分からなかったことを、暮らしの中で実感を伴って学べると実感しました。

広がる学生との共創 「さとのば大学」


2022年より、長良川カンパニーは、地域に暮らしながら実践するプロジェクト学習を軸とした新しいスタイルの市民大学「さとのば大学」の留学先となりました。私は郡上キャンパスのコーディネーターを務め、大学生との新たな関わりや広がりに喜びを感じています。

具体的には「人も自然も、ともに再生していくためにはどうすれば良いか?」——この問いを深めるため、学生たちとともにフィールドに出て手を動かし、プロジェクトを実践しながら課題解決に取り組んでいます。

2023年の夏からは、台湾からのインターン生の受け入れも始まりました。

さとのば大学のプログラムの様子

台湾の留学生と仕事仲間と郡上踊りを満喫した様子。郡上の盆踊りは1カ月続く日本一のロングランで、
お盆の徹夜踊りの時期は夜8時から朝4時まで踊ります

学生と、風土を中心とした学びをともに深め、プロジェクトを共創していくことにワクワクします。そして、未来が不安で希望が持てず鬱々としていた学生が、郡上の自然や人との関わりの中で、もの凄く変容し生き生きして帰っていく姿を見ると、とても嬉しいです。

私自身も郡上での暮らしが始まって、自分が自然の一部であると感じるようになり、もう少し自然の声に耳を傾けたり、自然を感じたり、喜びを味合うことが凄く大事だと気持ちや感覚が変化していきました。人の教育といっても、まずは地球や自然環境があってこそだと、教員時代の考えを一度真っさらにして勉強し直しているところです。

コンヴィヴィアリティ みんな不完全であり、不完全でも社会に関わっても良い


最後に。私は「コンヴィヴィアリティ(自立共生、自立協働)」な瞬間に出会えるととても嬉しいです。コンヴィヴィアリティとは個を重視しながら人々が支え合い、ともに生きる社会の在り方を指しています。

今年1月に行われたUNESCOの教育勧告のシンポジウムでは、コンヴィヴィアリティの言葉の定義を「ともに楽しく生きる_不完全なものが関わることで生き生きすること」と定義していました。そしてコンヴィヴィアリティな瞬間は、多様な関わりの中や開かれた場で生まれるということを実践から学びました。

この言葉を知った時、不完全でも社会に関わって良いと言われている気がして、背中を押されました。私自身も不完全な人間ですが、それでも人と関わることで学びがあり、希望を経て、生き生きと生かしてもらっています。これからも3人の子育てをしながら、エシカルな感覚を大事に、心地良い暮らしの延長に、喜びを分かち合えるような仕事をしていきたいと思います。

文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2025/4/5

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