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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】

#20 まずは遊ぼう!楽しもう! 
沖縄県恩納村でサンゴの養殖プログラムを提供する\ 大嶋紗織さん /

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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。

第20回目は、8期修了生の大嶋紗織さんです。「絵本セラピスト®」の資格を取得し、一番自分らしく「エシカル」を伝えられる方法を見つけた大嶋さん。ずっと続けているサンゴの養殖とかけ合わせて、子どもから大人まで、とにかく楽しむことで自然を好きになってもらえるようなプログラムを提供しています。大嶋さんが目指す「優しさの循環」とは? ぜひご覧ください。

::Profile ::


大嶋紗織
神奈川県出身、幼い頃より海を身近に感じ、海中から見る太陽に感動しダイビングインストラクターの道へ進む。その後、不思議な生物「サンゴ」に魅了され、2013年に沖縄県恩納村にて、沖縄ダイビングサービスLagoonを立ち上げ、現在はサンゴに特化したプログラム(サンゴの苗作り体験やサンゴの植付け体験)を提供。2024年のジャパントラベルアワードではサステナブル部門を受賞。自然の中で心のおもむくままに遊ぶ体験が、人と自然の共生への道標になると感じ活動を続けている。
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【支援】
エシカルチケット: Lagoonの1万円の「エシカルチケット」は、【3千円分:ゴミ拾いへの貢献、4千円分:若者たちへの支援、3千円分:運営経費】というように、支援の形を明確に分けています。誰でも購入でき、購入された分だけ、ゴミ拾いを行うボランティアや、若者が支援を受けられる仕組みです。また、5千円分の「こども・学生支援プロジェクトのチケット(毎月4枚発行)」との併用も可能で、各プログラムの定価から最大9千円分の割引ができます。

このエシカルチケットは、エシカル・コンシェルジュ講座で、「環境(生物)・社会・経済」の3つの分野は、互いにリンクしていて、それぞれを分けて考えることができないと学び、その視点で物事を考えてみようと思ったことがきっかけで誕生しました。3つのキーワード「環境(海洋保全活動)、社会(若者への支援)、経済(運営費)」を動かし、繋がり、輪が重なる「優しさの循環」を目指しています。

【体験】
マナティプロジェクト:専用バッグが借りられるスポットを訪ねて、手ぶらで好きな時に好きな場所で、ワンコイン(500円)でいつでも気軽に参加できるクリーンアクティビティ。Lagoonもプロジェクトの参加スポットとして登録されています。観光地でゴミを拾うことで「気づく! 感じる!」エシカルアクションです。

左:「エシカルチケット」と「子ども・学生支援プロジェクト」のPOP、右:マナティプロジェクトで借りられる専用バッグとトングと軍手

地元の漁師さんたちの想いを形にしたい!


私は神奈川県出身で、18歳の時にダイビングインストラクターを目指し、専門学校に入学しました。当時はダイビング未経験でしたが、海が大好きだったので、海に関わる仕事がしたいと思っていました。専門学校で初めてダイビングを体験し、その魅力に強く惹かれて、20歳で卒業後、奄美大島でダイビングインストラクターとして働き始めました。

奄美の海は美しいと感じていた私に、ある時、地元のおじいが「これは死んでしまった世界だよ」と話してくれたことが、サンゴについて調べるきっかけとなりました。それまでサンゴに全く興味がありませんでしたが、サンゴがいかに海にとって大切な存在であるかを知り、もっと学びたいと思うようになりました。

その後、2006年にサンゴの養殖技術が進んでいた沖縄の恩納村に移住し、一からサンゴについて学びました。サンゴの養殖は、美ら海を次世代に残すために地元の漁師さんたちが中心となり、それをダイビングインストラクターがサポートする形で行われていました。私はサンゴに向き合う漁師さんたちの姿勢に感銘を受け、もっとサンゴの活動がしたいという気持ちが強くなりました。

しかし、当時はSDGsなどの考え方もなく、当時働いていた会社では、ビーチクリーンなどの利益の上がらないボランティア活動を快く認めてもらうことは難しい時代でした。そこで、漁師さんたちの想いを形にできたらと思い、2013年に株式会社ラグーンを立ち上げ、今年で設立して13年目を迎えます。

サンゴを養殖している様子

ステータスよりスタンス、スタンスよりアクション!


サンゴの保全に取り組みながら、もっと学びたいと思い色々調べる中で、エシカル協会や末吉さんの活動を知り、エシカル・コンシェルジュ講座はとても素晴らしいと感じていました。でも、沖縄に住んでいるため受講は難しいと諦めていましたが、2020年にオンライン講座が始まることを知り、受講を決めました。

特に印象に残ったのは、The Breakthrough Company GOのクリエイティブ・ディレクター 砥川直大さんの「エシカルを拡めるには?~社会を動かすメッセージのつくり方~」の回です。「ステータスよりスタンス、スタンスよりアクション! 」という言葉に強く感動し、このメッセージを会社のホームページにも掲載しました。

この考え方は、地元の漁師さんたちのアクションとも繋がり、行動することの大切さを再認識しました。「1人の100歩より100人の1歩」のように小さな行動でも重要だと感じ、受講後は、やる気に満ちていました。

でも、途中で自分の中に正義を作り出してしまい、本当に苦しい時期もありました。ビーチにゴミが捨てられているのを見て、海をゴミ箱にする人々に苛立ちを感じ、心が不安定になったり、他のエシカル・コンシェルジュの活動を見られなくなったりしました。その時に、心が豊かでないと社会活動を続けることは難しいと痛感します。

最終的に、「なぜ私が海にゴミを捨てないのか?」と自問したところ、海は私にとって家族のような存在で居心地の良い場所だからであり、「海にゴミを捨てないで」というような命令口調ではなく、海を愛する人を増やす方が効果的だと気づいたのです。そして、その思いを、「心の豊かさ」をキーワードに、多くの人に広められるプログラムを提供したいと思うようになりました。

絵本はメッセージを伝えるためのアイテム


昨年の2023年、「絵本セラピスト®」という資格を取得しました。ほとんどの絵本は子ども向けに作られていますが、絵本は子どもだけのものではありません。その優しい言葉や柔らかな絵は、五感を通じて大人にも癒しを与えてくれます。実際に絵本を読みながら私もそれを経験しました。

資格を取得した背景には、コロナ禍を機に本が好きになり、様々な本を読み漁っていたことがあります。本に書かれている昔からの教えやメッセージは、今でも色褪せることなく伝わり続けていることに感銘を受けます。本は読むのが苦手な人もいますが、絵本ならストーリーが短く、メッセージを伝えやすいと感じました。

目上の方に私の言葉で何かを伝えることは恐縮してしまいますが、絵本を通じてメッセージを伝えることで、相手にとっても素直に受け取りやすいのかなと思っています。絵本は私にとって「メッセージを伝えるためのアイテム」です。これが一番私らしく「エシカル」を伝えられる方法だと感じています。

Lagoonでは絵本の読み聞かせを、恩納村の自然の中を歩く「森海浴プラン」や、サンゴ保護/SDGs体験ができる「法人・団体様向けプラン」で、参加者の年齢層や企業の意図に合わせて本を選び、実施しています。絵本の読み聞かせを行う中で、女性は元々共感してくださる方が多いですが、最近は男性の方からも「癒された」との声をいただくことが増え、絵本が癒す力を持っているとより強く実感しています。

「森海浴プラン」で絵本の読み聞かせをしている様子

「法人・団体様向けプラン」で絵本の読み聞かせをしている様子

特に、あるサラリーマンのお客様が「今日、この会議室を出たら空を見上げてみようと思います」と言ってくださったことが嬉しくて、ほんの少しでも自然との繋がりを感じてもらえたり、癒されたり、その輪が広がったら素敵だなと思います。そしてその中で、「そういえば絵本でもこんな話があったな」と、ふと思い出して自然に「気づき」が生まれるきっかけになっていたら嬉しいです。

絵本は、年齢を重ねるごとに読む際の感じ方や受け取り方が変わることも多く、同じ本を読んでも人によって感じ方が異なります。私はこの活動を通して、色々な人がいて価値観も捉え方も違うということを、ようやく最近素直に認められるようになりました。

絵本コレクションの一部。図書館に通い、本当に手元に置いておきたいと思う本だけを購入しています
左:『ちいさな ハチドリの ちいさな いってき』、中:末吉里花さんの『じゅんびはいいかい? 名もなきこざるとエシカルな冒険』右:『わたしとなかよし』

まずは遊ぼう!楽しもう! その中で「気づき」が生まれていく


会社を立ち上げた当初は、サンゴの養殖をイベントのように開催していましたが、最初の3~4年は参加者がほとんどおらず、認知されない時期が続きました。しかし、数年前から社会でSDGsへの関心が高まり、取材の機会が増えたり、大手ホテルとコラボしてプログラムを提供するようになったりしたことで、徐々にサンゴの養殖に関心を持つ人も増えてきました。時代の変化を強く感じています。

それでも、取材特集を読む層は意識の高い人が多く、まだまだ大衆には認知されていないと感じます。一般の方々に、どうすれば興味を持ってもらえるのか悩んでいましたが、考え続けた結果、ここでもまた「まずは自然を楽しんで好きになってもらうこと」が大切だという結論に至りました。

昨年、「遊」という漢字に出会い、その意味に感銘を受けました。ホームページにも書いていますが、「遊」は元々、神様が自由に行動するという意味でしたが、今では「人間が心の赴くままに行動して楽しむ」という意味となったそうです。

誰もが生まれてきただけでパーフェクトであり、その中で極力楽しいことを選んで生きることは、決して悪いことではありません。「遊」のように、ダイビングインストラクターとして、お客様に安心して楽しんでもらうことが、お客様が自然と共存する道標になると信じています。

自然に触れることで生まれる喜びは、人々の心を救う


私にとってサンゴは、形が可愛くて、色も美しくて、人間には作れないものを持っている、とても魅力的な生き物です。いつも豊かな気持ちにさせてくれます。色々な考え方がありますが、私自身は、サンゴをはじめ自然を「守る」という感覚はなく、むしろ自然に「守られている」と感じています。そのため、遊ぶ場所や癒される場所を大切にしているだけという感覚です。

人間は自然の一部であり、「自然を守る」必要があるというならば、「人間自身を守る」必要もあると思います。「心を守る」という考え方の方がしっくりくるでしょうか。自分の心を大切にすることが、結果的に自然を大切にすることにも繋がると思うのです。

2024年には大規模なサンゴの白化現象が起き、養殖してきたサンゴの半数以上が死滅しました。でも、これまでの活動が無駄だったとは全く思いません。自然に触れることで生まれる喜びは、現場で働く人たちや関わってきた多くの人々の心を救ってきたと感じます。科学的な観点から「人間が手を加えること」に疑問の声があるのも理解しています。

でも、多くの人々が「サンゴと出会えてよかった」と言ってくれたことは、私にとって大きな支えです。やり方は人それぞれですが、違う方法だからといって否定せず、私は私のやりたいことを続けていこうと思います。

白化しているサンゴをカラーチャートで調査している様子

優しさの循環が広がっていく未来を目指して


今後の目標は、「遊」をもっと実行できるように、子どもたちが、遊びながら自然と触れ合う中で気づきや学びに結びつく場をもっと増やしていくことです。2024年には、教育委員会や地元の漁師さん、学校の先生たちと協力し、沖縄県恩納村の全小学校の6年生を対象に、シュノーケリングでサンゴ養殖の現場を見る授業を導入することができました。

こうした取り組みが、今後も学校のカリキュラムの中に取り込まれていくと嬉しいです。それが難しくても、自然や人の背景に思いを馳せ、信念や想いを持ったインストラクターの元で、より多くの子どもたちが海との繋がりを深められる機会が増えることを願っています。

ぜひLagoonの「エシカルチケット」や「こども支援チケット」も活用してほしいです。一部のお客様からは「ただ安くするのはどうなのか」という声もありましたが、私は“行動して体験しないと何も感じられない”と信じているので、より多くの人が自然を体験できるよう、できるだけ手の届きやすい価格で提供したいと考えています。また、そこには「人の優しさ」も含まれていて、“甘えるときは甘えて良い”“人は助け合って生きている”というメッセージも伝えていけたらと思っています。

ある小学生が、エシカルチケットの支援を利用後に「自分と同じ体験をしてほしい」という思いから、自分のお年玉でエシカルチケットを購入してくれた時はとても感動的でした。自分が感じた喜びを他の誰かにも伝えたいという思いが、まさに「優しさの循環」を生み出していると感じた瞬間です。こうした優しさが、より多くの子どもや若者たちの間で広がっていったら素晴らしいと感じます。

最近読んだ本に、石井桃子さんの言葉で“『子どもたちよ』 子ども時代をしっかりと楽しんでください。大人になってから 老人になってからあなたを支えてくれるのは 子ども時代の「あなた」です。” と書かれていました。

この言葉は、まさに私の想いそのものです。自然が近くにある子どもたちには、もっと体験できる機会を、自然が近くにない子どもたちには、エシカルチケットなどの支援を活用して、自然に触れる機会を、どんどん増やしてほしいと思います。これからも体験を通じ「遊ぶ」「感じる」「考える」を大切にしながら、子どもや若者たちに自然と「優しさの循環」が広がっていく未来を目指していきたいです。

文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2025/5/2

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