衣食住でエシカルを感じられる街、ロンドン在住の板坂千恵子さんのレポートをご紹介します。

「ロンドンで一番クールなエリア」イーストロンドンでみる、エシカルとサスティナビリティ

イーストロンドン(もしくはイーストエンド・オブ・ロンドン)と聞くと、なにを思い浮かべるでしょうか。おそらく、現在のロンドンを知る人と、以前のロンドンを知る人とではイメージが180度異なっていることだと思います。奈良教育大学の根田克彦先生が、「ロンドンは、2012年の前に、1908年と1948年に近代オリンピック大会を開催しており、過去2度のオリンピック大会は、ロンドン大都市圏西部で開催された。それに対し、2012年のオリンピックは、それまで経済的・社会的に無視されてきたといわれるイーストロンドンで開催された」[1]というように、イーストロンドンは、つい最近まで、「経済的・社会的に無視されてきた」場所でした。それが今では、『地球の歩き方』のなかで、「今では、ロンドンで一番クールなエリア」と記載されるようになっています。

これもまた根田先生によると、「シティを中心として、西側に富裕層が居住するウェストエンド、東側に労働者と工場があるイーストエンドの対照的な都市構造が形成された」[2]とのことですが、そんなイーストロンドンの中心の一つが、シティの東側にあるスピタルフィールズ(Spitalfields)です。かつて、織物、衣服、染色に携わる移民が居住したところで、今では再開発著しく、このエリア一帯が、若いアーティストたちの集まるとてもファッショナブルなエリアとなっています。それをあらわすかのように、ここではストリートアートが芸術として認められていて、地方自治体と不動産所有者もストリートアートを保全し合法化するなど、街全体がアートの役割を果たしているといっても過言ではありません。かのバンクシーの有名な絵もイーストロンドンで見ることができます。(ガラスで守られてはいますが。)また、ヴィンテージファッションのショップやここにしかないショップも建ち並び、ファッション好きにはたまらないエリアでもあります。それゆえ、独自のコンセプトをもつお店も多く、サスティナビリティやエシカルをテーマとするようなショップもいくつも存在しています。まずはそんなお店を一つご紹介します。このショップのおかげで、私のロンドンライフのクオリティが上がったといえる、とても大切なお店です。

曜日ごとに異なるコンセプトで開催されているスピタルフィールズマーケットの外側に、The Mercantileという小さなセレクトショップがあります。店内は狭いものの品数はとても豊富で、世界中からバイヤーが厳選しているという雑貨やアクセサリーといったファッショングッズから、シューズ、洋服がセンス良く飾られています。ここで取り扱うブランドを調べてみると、その多くでサスティナビリティやエシカルという言葉を目にすることができます。なかでもKOMODOというロンドンのファッションブランドのタグには“The Original Ethical Brand Since ‘88”と書かれており、いち早くそういったコンセプトのもとに設立されたことがわかります。そして実際とても着心地の良い洋服が多いです。


[1] 公益社団法人日本都市計画学会 都市計画報告集 No.16,2017年8月 「イーストロンドンの都市再生と立候補ファイルにおけるオリンピックレガシー計画」 根田克彦

[2] 地理空間 13-3 2020年 「ロンドン、タワーハムレッツにおけるブリックレーン商業集積地とタウンセンター政策」 根田克彦


このショップの扱うブランドを調べていて一つ気づいたことが、「デンマークのファッションブランド」率がとても高いこと。デザインもとてもセンスのよいものが多いので、気づくと、クローゼットのなかにデンマークのものが増えていました。そこで調べてみると、やはりデンマークでは街中のいたるところでエシカルなファッションブランドやショップ、オーガニックのレストランなどを見つけることができるとのこと。世界情勢が落ち着いたら実際に見に行ってみたいですね。

 そして、イーストロンドンのファッショナブルなエリアということでもう一つ取りあげたいのが、エンジェル(Angel)です。ここもまた以前のロンドンを知る人とそうでない人ではイメージがまったく異なるエリアといわれていて、今ではロンドンでファッションに興味のある人には欠かせないエリアであるとともに、飲食店もこだわりのお店がとても多く、日系のカフェやレストランも大人気です。JUJUさんと三浦春馬さんが実際に来て大興奮していたのがまさにこの街でした。ここ数年でどんどん開発が進んでいて、行くたびに新しい発見をすることができる、とても魅力的な街といえます。そんな再開発でできたショッピングエリアの一画で定期的に開かれているのが、The Angel Central Sustainable Market。あまり大規模ではないものの、とてもこだわりをもつショップに出会うことができます。

たとえば、ethicsとサスティナビリティをテーマにしているgodiというレザー専門店。一人の男性がデザインとサンプリングをし、イーストロンドンと南インドにあるスタジオにて手作業で作っているという超のつくこだわり派のお店です。そして自ら店頭に立って販売もしています。私の夫がこのお店の商品の大ファンで何度か買い物をしているため、すっかり顔見知りになりました。話を聞くと、皮にもとてもこだわりがあるらしく、実際に手に取ってみると、その質の良さがよくわかるし、作り手が実際に目の前でいろいろと説明してくれるので、安心して買うことができます。(出店場所は定期的に変えているようなので、ホームページのチェックをお忘れなく。)

そしてEARTH TO ROOTSというスキンケアショップのテーマは、サスティナビリティとリサイクル。最近ではよく耳にするようになりましたが、このショップも商品開発において動物を使った実験は行わず、天然の植物ベースにこだわっているとのこと。極力地元の材料を使い、二酸化炭素の排出を減らすために、周辺地域に自転車で配達に行っているというほど徹底しています。このショップではシャンプーとコンディショナー、洗顔を購入して実際に使ってみましたが、市販のものとはまったく感覚が違い、泡立ちなどはほとんどないものの、使っていて素材の優しさとはどういうものかがよくわかる商品でした。ちなみに、この商品を買った直後に落としてコンディショナーの瓶を割ってしまったのですが、割れたというよりも、粉々になり最終的に液状になってコンディショナーと一体化してしまったのです…! 慌てて買い直しに行くと、交換でいいよと言ってくれて、ガラス瓶のこだわりについても教えてくれました。何か特殊な製法をしているらしく、それゆえ普通のガラス瓶とは違っているんだ、とのことでした。

このように、ロンドンにおけるエシカルやサスティナビリティは、ファッショナブルなエリアで、新進気鋭のアーティストたちによって少しずつ定着してきている、というのが私の認識です。もちろんロンドンのすべてを認識しているわけではないですが、「ロンドンで一番クールなエリア」で見ることのできるエシカルとサスティナビリティは今のところこのような感じです。付け加えておくと、ヴィンテージ商品はまさに再利用ということで環境に優しいものだと思いますが、イーストロンドンには、ヴィンテージショップがこれでもかというくらい存在しています。バーバリーのトレンチコートなどは品ぞろえが豊富で状態の良い商品が多く、実際にこのショップの一つで働かれている日本人女性からいろいろ教えてもらうことができました。そんなイーストロンドンは、ファッションやアート好きにとって、さまざまな面で魅力的な街といえます。

板坂千恵子

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元高校教師が綴る★ロンドン世界史日記★
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