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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】
#4 Parisのビジネススクールで
サステナビリティの修士を取得した
\ 西願友子さん /
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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。
第4回目は、9期修了生の西願友子さんです。パリのビジネススクールでサステナビリティについて学び、最近日本へ帰国した西願さん。どんな学びを得て今後はどのような活動をされるのか、普段聞くことができない貴重なお話をたくさん伺いました。
西願友子
上智大学国際教養学部卒。学生時代から社会問題に関心を持ちソーシャルビジネスを志す。新卒でカンター・ジャパンのリサーチャーとして幅広い業界の企業との経験を積んだ後、環境・社会にポジティブな変化をもたらしたいとサステナブルな生活をガイドするプラットフォームELEMINISTにジョイン。さらに専門知識をつけるためパリのビジネススクールでサステナビリティの修士を取得。今後のミッションは社会システムを根本から変えるため、企業のサポートすること。
おすすめのエシカル
【映画】
Kiss the Ground:気候変動逆転の方法としての土の重要性を美しく伝えてくれるNetflixのドキュメンタリー
【お店】
La recyclerie(ラ・ルシクルリ):エシカルが体験できるカフェ。パリ在住のサステナ仲間と集まった思い出の場所
Headless(ヘッドレス):小さいけれどセンス抜群のピースが厳選されたパリのお気に入りの古着屋さん
【イベント】
パリのマルシェ:生産者さんから季節の新鮮な食材をプラフリーで買うことができる、パリ生活になくてはならない存在
La recyclerieの旬・ローカルにこだわった食材を使ったランチ店内の様子
Headlessで購入したお気に入りのパンツ
エシカルに興味を持ったきっかけ
私は大学時代に社会人類学を専攻し、在学中の1年間はカリフォルニアに留学していました。エシカルに興味を持ったのは、スーツケース一つで渡米したにもかかわらず、1年後の帰国時、そこには到底入らないほどの物を購入していたことに衝撃を受けたからです。そのことをきっかけに、大量消費をはじめとする現在の社会構造に疑問を持ち始めました。
なかでもまず注目したのがエシカル・ファッションです。帰国後、女性たちの自立支援のために生まれたエシカル・アクセサリーブランド「Phuhiep(フーヒップ)」でインターンを始めました。
サーキュラPhuhiepのアクセサリー
そして、日本のエシカル・ファッションブランドについて調べるとフェアトレード・ファッションの世界的パイオニアである「People Tree」に辿り着き、末吉里花さんの存在やエシカル・コンシェルジュ講座を知ります。講座を受講したのはそれから数年後の社会人になってからです。
自分で社会・環境問題について調べたり勉強したりしている時は、注目する分野がもともと興味のあるものに偏りがちでした。でも、講座での学びは包括的に社会全体を見ることができ、全ての問題は繋がっていることがよく理解できて良かったです。
一番印象に残った講座とその理由
一番印象に残った講座は、斎藤幸平さんの「エシカルを大衆のアヘンにしないために」の回です。受講前から、パワーシフトやダイベストメント、エシカル消費など、自分の生活の中で取り組めることは積極的にしていましたが、それ以上のインパクトをもたらすにはどうしたら良いのだろう、と壁を感じていました。
そこで斎藤さんの「個人のアクションで終わってしまっては意味がない。消費者ではなく企業が責任を持ち、社会全体のシステムをガラッと変える必要がある」というお話を聞けて、とても腑に落ちました。
特に印象に残っているのが「牛丼を食べた後に気候マーチに行って良い」というお話です。「環境・社会問題に対して個人でできていないことに後ろめたさや罪悪感を感じる必要はない。完璧じゃなくても良いからどんどんアクションに移そう」という言葉に勇気づけられました。このお話はよく周りにもシェアしています。
講座を受講前と受講後の気持ちや行動の変化
大学生の頃から「いつか自分の子供が大人になる頃、地球は、日本は、安全に暮らせる環境だろうか……」と気候変動による危機的な状況に不安になることが多々ありました。そしてコロナ禍でその気持ちはピークに達します。
でも、その不安に対してEarth Companyの濱川明日香さんは、講座の最後の質問コーナーで「どんなに頑張っても地球環境が悪化してしまうこともあるけれど、今私たちにできることをやるしかない。悩むのをやめて、行動することで前向きになれるのでは? 」と回答してくれました。
それを機に、環境に関して同じ気持ちを持つ人と話したり、今自分にできるアクションに集中することで、気候不安に圧倒されずに前向きになることができました。
そして、周りにもたくさんの人が問題を学び、行動に移すために講座を受けていることを知ることで「自分は一人ではない、エシカル・コンシェルジュの仲間と団結してこれからも行動を続けよう」と励まされました。
フランスのビジネススクールで学ぶきっかけ
前職の「ELEMINIST」で、サステナビリティの 基本を学ぶためのワークショップをクライアントに向けてすることがありました。その経験から、ビジネスにおいてのサステナビリティの大切さを企業に伝えていく上で、もっと自分に専門知識があれば、より大きなインパクトが与えられると感じたことが、ビジネススクールへの進学を決めたきっかけです。
サステナビリティ・トランスフォーメーションとは
私が通っていたのはフランス、パリ近郊のESSEC Business Schoolの「サステナビリティ・トランスフォーメーション」という2022 年8月にスタートした新しいプログラムです。
このプログラムに惹かれた点は、「エシカル・コンシェルジュ講座」のように社会全体とビジネスの在り方を包括的に理解、そして挑戦できるジェネラリストを育てることを目指しているところです。
プログラムの前半で金融やマーケティング、企業会計など、様々な視点からサステナビリティの基本的な知識を身に付け、後半では気候変動と生物多様性、サステナブルファイナンス、ダイバーシティ&インクルージョンなどの6つの分野から自分の興味のあるものを専攻します。
大学時代から大量生産・消費・廃棄の社会構造に疑問を抱き、資源が循環する社会を築く貢献がしたいと志していた私は、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」を専攻しました。
サーキュラーエコノミーは現在の経済システムを根本から変えることのできる画期的な解決策の一つであり、今後私たちが安全に暮らしていける地球環境を守るために必須な大転換だと信じています。
サーキュラーエコノミーについて学ぶワークショップ、Circular Economy Freskの様子
ビジネススクールで出会った仲間たち
ビジネススクールで出会った仲間は、誰もがとても心優しく、お互いへ思いやりのある人ばかりでした。私のプログラムのクラスメイトは37名で平均25歳。日本人は私一人で、フランスの方が半分程、その他は世界中の様々な国から学びに来ていました。
プログラム当初の自己紹介で印象に残っているのが、「Cognitive dissonance(認知的不協和)」という、“本当はエコじゃないからやめたいけど、やめられないこと”を共有する時間です。
“本当はお肉や乳製品を食べるのをやめたいけど、まだ完全にやめられない”“飛行機を使うのは避けたいけど旅行はやめられない”など「3V(Viande, Vol, Voiture)」と呼ばれる肉、飛行機、車 に関連するものが特に目立ちました。
“本当はやりたいけどできていない”という心の葛藤を打ち明けることで、他の人も同じ気持ちを抱いていることに気づくことができます。自分の努力が足りていない、と罪悪感を感じることがありましたが、このエクササイズを通して「自分は一人ではない、それでも意識をもって行動することが大事」という前向きな気持ちになることができました。
学校が始まって間もなく、クラスメイト同士は打ち解け、クラス全体で郊外の家を借りて1泊を共に過ごしました。自分たちで用意する食事はベジタリアンメニュー、飲み物のカップはそれぞれ持参するなど、自然と環境への配慮ができるグループの一員になれたのはとても誇りに思えることです。
もちろん、人それぞれ食事の制限や好み、環境アクションの程度は様々ですが、それでもお互いをリスペクトしながら共存できる環境はとても心地良かったです。
ビジネススクールのクラスメイトとの集合写真
サステナビリティ ストラテジストとして仕事をスタート
ビジネススクールで1年間学んだ後、2023年7月に日本へ帰国しました。9月からはファブリックというストラテジーコンサルティングの会社でサステナビリティ ストラテジストとして働いています。
この仕事では、クライアントが持っている課題に対してベストな戦略を導くために、「デザイン思考」というユーザー視点でニーズを明らかにする考え方を活用します。商品やサービスのデザイン段階で、資源が循環するような仕組みを作ることで、社会・環境課題とユーザーのニーズ両方を解決していきたいと思っています。
気候変動の逆転に必要不可欠な「社会システムの根本からの変革」に貢献するため、これまでの学びや経験を活かして、日本で活躍する企業のサポートができたら嬉しいです。
文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2023/10/25