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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】
#10 持続的な心と体の健康をサポート
町の保健室の先生を目指す
\ 中村沙央里さん /
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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。
第10回目は、10期修了生の中村沙央里さんです。大学で看護を学んだのち、産業保健師として幅広い世代への健康支援に携わってきた中村さん。現在は岡山へ移住し、独立してお店を営んでいます。講座を受講したことで動き出すスピードが早まったという移住までのストーリーから、こだわりのお店についてなど、お話を伺いました。
::Profile ::
中村沙央里
大学で看護を学んだのち、企業の産業保健師や小学校の養護教諭として幅広い世代への健康支援に携わる。2020年12月、大阪から岡山への移住を機に、より包括的に一人ひとりの暮らしに寄り添った健康サポートをしていきたいと感じ、独立。 現在は備前焼の窯元の跡地で暮らしながら、「Totonoimashita」で個人へのパーソナルセッションをはじめ、自家発酵ドリンクの量り売りや、食や健康に関するワークショップを行う。
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【店】
名刀味噌本舗:住まいからほど近くにある岡山県瀬戸内市備前長船にある昭和29年創業の味噌屋さん。製造場所で販売もされていて、お店の入り口を開けるといつも麹の良い香りに癒されます。 お味噌の他に塩麴や甘酒、ひしおなども販売されていて、どれも絶品! 容器持ち込みで、お味噌の量り売りも可能です。
【ブランド】
フェアトレードショップLove & senseで見つけたインドネシアのブランド「HANDEP」のラタンイヤリング:全て手作業で作られていて、商品には全て、編み手さんの顔写真付きのタグが付いています。英語ですが、なぜHANDEPの仕事をすることになったのか、仕事をしたことでどのようなインパクトがあったのかなどのストーリーも掲載されています。アクセサリーは肩がこるので、あまり着けない方でしたが、このイヤリングは自然素材のラタンでできているため、とっても軽くて付け心地が最高。カジュアルでもキレイめでも、これ一択でどんな服装にも合わせやすいのも嬉しいです。
右:ラタンイヤリング
エシカルに興味を持ったきっかけ
私は大学で看護の勉強をしていたので、看護師と保健師の資格を持っています。大学卒業後は企業に働く方の健康管理を担う産業保健師として約10年、小学校の保健室の先生として約3年、幅広い世代への健康サポートに携わってきました。
でも、産業保健師になって10年ほど経った頃、具体的な原因は分からなかったですが、ずっと心に靄がかかっていて、何か不調を感じていました。健康についての栄養学や医学的な知識は持っていたはずなのに、今振り返ると自分自身が健康じゃなかったと思います。
そこで、自分自身を健康にしていくために、もっと自分が心地良いと感じることや、好きなことをやっていこうと動き出しました。ちょうどその頃、“ヘルシーに生きる”というテーマや世界観が素敵だなと思って愛読していた「HONEY」という雑誌でモデルの長谷川潤さんを知ります。
そして、長谷川さんがやっているPodcastで、エシカル協会代表理事の末吉里花さんがゲストの回のThe Ethical Movementを聴いて、はじめて「エシカル」を知りました。
お話を聴く中で、内容はもちろんですが、まず印象的だったのが、お二人がとっても生き生きされていたことです。里花さんはエシカルをライフワークとしてやっているとおっしゃっていて、とても楽しそうで素敵だなと思いました。
それまで、ちっぽけなことで悩んでいましたが、普段は見えない世界の裏側にいる人たちに思いを馳せることで、とても心が豊かになるのではないかと感じました。
そして、20代前半から食育も学べる料理教室に通ったり、体にとって安心安全で旬のもの、こだわりの卵などを選んだり、“健康になるために”好きで意識していたことが、エシカルにも繋がると知って嬉しかったです。
エシカル・コンシェルジュ講座を受講したきっかけ
Podcastを聴いてすぐに、紹介されていた本『はじめてのエシカル』を読みました。そこでさらにエシカルに興味を持ち、エシカル協会のHPで5期(2019年春)のエシカル・コンシェルジュ講座の存在を知って、すぐに受講を決めました。
当時は大阪に住んでいたので、全講座通うと交通費が高額になってしまうため、特に受けたいと思ったいくつかの講座を単発で申し込み、夜行バスで東京の会場まで通っていました。長距離の交通費をかけてでも行きたいと思えたのは、それほどビビッとくるものがあったからです。
単発受講のため5期では修了書をいただくことはできませんでしたが、その後、10期を全受講して晴れてエシカル・コンシェルジュとなることができました。
一番印象に残っている講座や受講後の気持ちの変化
5期で一番記憶に残っている回は、やはり「エシカルの基礎」です。実際に里花さんの活動に対する生き生きとしたエネルギーに触れて、とても刺激を受けましたし、その活動が単純に凄く楽しそうだと思いました。
そして漠然と「エシカルを通じて心と体が健康になりそう」とも感じました。その当時は、言葉にするのは難しかったですが、エシカルの世界観には確実に健康に通じるものがあると思います。
受講後の身近な変化としては、エシカルを学んで選ぶ基準ができたことで、大袈裟かもしれませんが、生き方に軸ができました。それまでファッションセンスに自信がありませんでしたが、おしゃれやセンスは関係なく、エシカルな基準で好きなものを身につけているということが自信に繋がり嬉しかったです。
また、6期(2019年秋)の幸せ経済社会研究所所長 枝廣淳子さんの「エシカルなまちづくりを考える」の回を受講したことで、時期などは具体的ではありませんでしたが、ゆくゆくは自然の豊かな場所に移住したいという思いがより強まりました。
地方創生というテーマがとても勉強になりましたし、講座の中で紹介されていた島根県の沖ノ島で「島の保健室」を始めた方の活動が、自分がやりたいことにとても近い気がして、受講後、その方に会いに行きました。その方は、アロマテラピーなどを学び、ボランティアとして医療機関での経験を積まれた後、きっかけがあり島へ移住されたということでした。
空いていた蔵を活用し、セラピストとして認知される工夫や精油の商品開発などもされる中で、しだいに人が相談に訪れるようになって、アロマトリートメントをしたり、ハーブティーを出したり、地域の方の拠り所や島の健康相談所のような場所になっていたそうです。
「私も産業保健師の先にこういうことがやりたいのかもしれない、こういう形で保健室を作りたい」と、凄く影響を受け、将来やりたいことが明確になりました。その後、2020年12月末に岡山の自然豊かな場所へ移住することとなります。講座を受けたことで、移住に動き出すスピードを上げることができました。
お客さんと伴走しながら持続的な心と体の健康をサポートするお店
移住先は岡山県で、もともと備前焼の後楽窯という窯のあった場所です。移住して1年後に産業保健師を辞めて独立し、住まいと同じ敷地内で持続的な心と体の健康をサポートし、お客さんと伴走させていただくお店「Totonoimashita」を営んでいます。
左:Totonoimashitaの入口 右:店内
同じ敷地内で主人が営むスープカレー屋と同じ営業時間に、自家発酵ドリンクの「KOMBUCHA(コンブチャ)」と、春夏秋冬それぞれの旬を取り入れた「季節を喰らうドレッシング」を販売しています。
左:KOMBUCHA 右:季節を喰らうドレッシング
また、食の提供の他に、味噌作りや睡眠についてなど、心も体も環境も含めて包括的に色んな分野で整えていけるような健康に関するワークショップを定期的に開催中です。
さらに、2023年の11月には自宅の一室をリノベーションして、元々一番やりたかった、個人の方の健康を一対一でサポートする保健室をスタートしました。
保健室の様子
食や心の感情、体の構造など、色んな方面からのサポートが可能で、何をするかは完全にオーダーメイドです。その方にとって効果を感じられ、習慣として定着できることを重視し、半年ほどかけて月1回、継続的に通っていただく形式のプログラムを主に提供しています。人によって悩みは様々なので内容は多種多様で多岐に渡ります。
住まいや店舗はできる限りDIY! こだわりはあるものを工夫して新たに作り替えること
築30年以上になる現在の住まいと店舗は、自分たちで少しずつDIYをしています。住まいの一部である保健室の床材は、5期の講座でトビムシ代表取締役の竹本吉輝さんが紹介されていた西粟倉森の学校の「ユカハリ・タイル」を使用しています。
地域資源を生かし、持続可能で透明性のある木材を使用していて、岡山に会社があることも魅力的でした。いつかこの床材を使用したいと受講した時から思っていたので夢が叶いました。
左:リノベーション前の畳の様子 右:ユカハリ・タイルで床を張った様子
また、9期の講座で徳島県上勝町ゼロウェイストセンターの大塚桃奈さんが紹介されていた宿泊施設「WHY」へも移住してから泊まりに行きました。電球がガラス瓶だったり、廃材で作られていたりするものがたくさんあって、いっぱい刺激を受けました。
実際にお店では使われなくなったドアのドアノブをハンガー掛けにしたり、備前焼を焼く際に使用されていた耐火煉瓦を使って家の囲炉裏を作ったり、あるものを工夫して新たに作り替えることにこだわりました。
ドアノブのハンガー掛けにエプロンをかけている様子
また、生ごみ処理器のキエーロは、YouTubeや、友人のお店のコンポストを実際に見に行って参考にしながら、3基手作りしました。だいたい1基に3箇所くらい入るので、全部で9箇所、9日間に分けて、主人のお店で出る食べ残しなどを主に、ローテーションで生ごみは自然に還しています。
左:3基の手作りキエーロ 右:キエーロの蓋を開けて中の様子をチェックしている様子
今後はもう一歩踏み込んで包括的にサポートすることが目標
私のお店のような民間の保健室は全国をみても非常に少ないですし、保健室の先生と言ってもとても抽象的なので、何をやってくれるのかが分かりにくいと思う人がほとんどだと思います。そこで、分かりやすいように最初は腸活をテーマに、体を整えていく提案として自家発酵ドリンク(KOMBUCHA)を販売することからスタートしました。
独立してから2年が経ち、ちょっとずつですが、色々な方にお店について知ってもらい、改善していきたいところはいっぱいありますが、大きな枠で見ると自分がやりたかったことができていると実感しています。
今後はもう一歩踏み込んで、一人ひとりの心と体が持続的に整うためのサポートをしていくことが目標です。その方のありたい状態を一緒に模索ながら、栄養面だけではなく、職場や住まい、地球環境なども大切な要素として、見つめていく必要があると感じます。
でも、まだまだお店の認知度が低いことや、活動の本質がお客様へ上手く伝わりきっていないことも痛感しています。今後は、さらに活動の様子や想いを発信したり、実際に体験されたお客様の事例を紹介したりするなどして、もっと多くの人に知ってもらえるように努力していきたいです。
文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2024/6/30