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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】
#21 入口はケーキ、出口はエシカル
鎌倉で米粉のスイーツ専門店「YOKO BAKES」を経営する
\ 福田容子さん /
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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。
第21回目は、14期修了生の福田容子さんです。「原材料を余すことなく大切に使い、最高の形でお客さまに届けること」を大切にしているお店のこだわりや、エシカルな取り組みを公にすることに抵抗があった講座受講前と、胸を張って発信できるようになった受講後の気持ちの変化など、貴重なお話しをたくさんお伺いしました。
::プロフィール::
福田容子
米粉のスイーツ専門店「YOKO BAKES」経営。 1983年2月生まれ。 奈良県出身。大学院からロンドンへ渡り、言語聴覚士となる。 留学先のデンマークで出会ったポーランド人と結婚し、現地の病院にて7年勤務。 イギリスで娘と息子を出産し、産休中に頼まれてウェディングケーキを作ったのをきっかけに、趣味のケーキ作りを仕事にしたいと願うBBCのブリティッシュベイクオフに応募し、4万人の応募者から50人の最終選考まで残る。 2016年末に日本へ引っ越し、現在鎌倉に住む。 2020年のスキー旅行をきっかけに環境問題に興味を持ち始め、小麦アレルギーの診断を経て、独学で始めたお菓子作りを米粉に転換。2021年3月に実店舗「YOKO BAKES」をオープン。> HP・Instagram
おすすめエシカル
【食】
YOKO BAKESのしっとりふわふわ「国産米粉の口福キャロットケーキ」:材料はとことん国産に、味はとことんイギリスにこだわった、当店人気No.1のキャロットケーキ。北海道産クリームチーズのクリーミーさとしっとりふわっとした生地が口の中とろけます。
YOKO BAKESのぎゅっと詰まった満足感「濃厚&リッチなブラウニー」:遠くの国の生産者さんに、想いを馳せながら食べて欲しい、当店自慢の“身体に優しく、自然にも優しい”幸せを呼ぶチョコスイーツ。フェアトレードのダークチョコレート、同じくフェアトレードの有機プレミアムココナッツオイル、当店定番の長野県産の平飼いの卵を使用しました。トッピングのホワイトチョコと、ローストしたくるみがアクセントです。
子どもの頃から大好きなお菓子作り
私は、大学在学中にデンマークへ留学し、大学卒業後にイギリスの大学院で言語聴覚士の資格を取得、そのまま現地の病院に就職し、結婚・出産を経て、イギリスに約11年間住んでいました。子どもの頃からお菓子作りが大好きで、イギリスで日常的に行われている持ち寄りパーティーに趣味で焼いたケーキを持って行くと、とても喜んでもらえました。
産休に入ったタイミングで、友人からバースデーケーキやウェディングケーキの注文をもらうようになり、「お菓子作りを仕事にしてみたい」と思うように。こうして言語聴覚士として働きながら、副業で「YOKO BAKES」としてケーキを作り始めました。
2016年、夫の仕事の都合で日本に帰国し、神奈川県の鎌倉へ引っ越します。様々なことが重なり、一時はパニック障害を経験したり、小麦アレルギーを発症したり、お菓子作りから離れていた時期もありましたが、どうしても諦めきれず、色々なご縁やきっかけが重なって、再びお菓子作りの道へ戻る決意をしました。
ちょうどその頃、子どもたちと一緒に山歩きのサークルに参加する中で、自然や環境問題にも関心を持つようになります。鎌倉のパタゴニアで見た展示をきっかけに海洋プラスチック問題に興味を持ち、関連する本をたくさん読みました。そうして、自分の作るお菓子からプラスチック(以下:プラ)包装を使わないと決めました。
また、その頃、子どもの頃からよく行っていて、久しぶりに訪れた長野県の白馬で、山の上にしか雪が積もっていない光景に大きな衝撃を受けました。「白馬といえば真っ白な雪景色だったのに……」地球温暖化の現実を目の当たりにした体験でした。そんな中、長年お世話になっている白馬の宿のおばさんから「お菓子作りに使って」と、可愛いクッキー缶をたくさんいただきました。
そのリサイクル缶にバレンタインのお菓子を詰めてInstagramに投稿すると、その活動が鎌倉でレンタルスペースを運営している方の目に留まり、そのレンタルスペースのリニューアルに合わせてお菓子を提供する機会をいただきました。コロナ禍の真っ只中でしたが、週に一度テイクアウト専門のお菓子屋としてお店を開くと、予想以上に多くの反響がありました。

リサイクル缶を使ったバレンタインのお菓子
その後、小麦アレルギーの診断を受けたのをきっかけに、米粉を使ったスイーツ作りにも本格的に取り組みました。次第に自分のお店を持ちたいという想いが大きくなり、2021年「YOKO BAKES」の店舗をオープンして現在に至ります。
やっと相談できる場所が見つかった!
エシカル・コンシェルジュ講座を受けてから、あっという間に1年が経ちました。色々な本を読んでいた時に末吉里花さんの著書『はじめてのエシカル』に出会い、鎌倉出身の末吉さんに勝手に親近感を抱き、それ以来ずっと、お店にもその本を置いていましたが、講座を受けるまでには、これからお話しするストーリーがありました。
お店ではプラ包装を使わずに商品を提供していましたが、クッキーは湿気に弱いです。プラ包装の方が、中身が見えて見栄えも華やかで、全く同じクッキーでも「『美味しそう』『買いたい』と思ってもらえるのかも? やっぱりプラが必要なのかな……」と、一人でモヤモヤ迷いながらも、紙包装にこだわって販売を続けていました。
そんなある日、当時一緒に働いていたスタッフから「お客さんはケーキが美味しいから買いに来るのであって、包装なんて気にしてないですよ」と言われて、ショックだったのですが、「本当にそうなの……? いや、きっとそうじゃない。末吉さんのようにエシカルなものを選びたい人もいるんじゃないかな? 」と思い、末吉さんがどのような発信をしているのか改めて探ってみることにしました。
すると、『センス・オブ・ワンダー』の本や、「ビジネスレザーファクトリー」のバッグの投稿があり、好きなものが一緒で嬉しくなりました。そして見つけたのが「エシカル・コンシェルジュ講座」の投稿です。「やっと相談できる場所が見つかった! 」と感じた瞬間でした。「私と同じように包装について悩んでいる人や、価値観を共有できる仲間と出会えるかもしれない、ヒントがもらえるかもしれない」そんな想いで、講座受講を決めました。
「食べ物は余すことなく全て使って届ける」開店当初から守り続けている大切な想い
講座の中で最も印象に残っているのは、お笑い芸人であり、ゴミ清掃員でもある滝沢秀一さんの「ゴミ問題〜ゴミは捨てて終わりではない〜」の回です。中でも衝撃を受けたのは、封も開けられていないお米や果物が、日常的に大量に捨てられているという事実でした。まだまだ価値があるはずのものが、当たり前のように処分されていく現実に、とても悲しくてショックで、心が痛みました。
それを育てた農家さんの姿や、食べるものに困っている人たちのことを思うと、「どうしてこんなにもったいないことが起きているのか」と、考えずにはいられませんでした。私は、お店で販売する全てのお菓子を米粉で作っています。「もし私がその“捨てられてしまう”お米を使えたら、きっと美味しいケーキに生まれ変わらせられるのに……」と、心がきゅうっと締め付けられるような想いでした。
私の仕事は、大切に育てられた素材を、最後に「ケーキ」という形で届ける重要な役割を担っていると思っています。直接生産の現場には関わっていませんが、農家さんが愛情を込めて育てた作物や、旬の果物・野菜、酪農家さんが毎朝絞った牛乳、遠くから届くチョコレートなど、その全てに、数えきれないほどの人の手間と時間、想いと技術が詰まっている素材を使わせてもらっています。
私はケーキを心から「作りたい」という気持ちと丁寧に向き合いながら材料を選んでいます。最後の「おいしいとこどり」をさせてもらっている気持ちでいるので、素材はとても尊いものです。だからこそ、無駄にすることも、捨てることも、自然となくなっていくのだと思います。
「原材料を一切無駄にせず、最高の形でお客様に届けること」は、私が開店当初からずっと大切にしてきた理念です。そしてこの想いは、一緒に働くスタッフたちにも、しっかりと伝えています。もちろん失敗することはありますが、それすらも学びです。日々の買い物は、自分の心と相談しながら、“本当に必要なもの”を選ぶ練習だと思っています。

お店で使用している素材(左:米粉、右:にんじん)
個人的に、主要材料の粉が、洋菓子店なのに米袋で届くギャップに萌えています。笑
誰もが「卵を買えば平飼いが当たり前」そんな社会になってほしい
もう一つ、心に残っている講座があります。それは、NPO法人アニマルライツセンター代表理事 岡田千尋さんによる「地球を分け合う動物たちに配慮する2つの方法」の回です。採卵鶏のケージ飼育については、イギリスの有名シェフ「ジェイミー・オリバー」のドキュメンタリー番組を観たことで、ある程度は知っていたつもりでした。
でも、この講座で紹介された映像は想像以上にリアルで、衝撃を受けました。正直に言うと、あまりに辛くて目を背けてしまい、最後まで動画を観ることができませんでした。「人は知れば気にかける」ように、ケージ飼いの実態がもっと広く知られるようになれば、きっと平飼いの卵を選びたいという人は増えると思います。
でも平飼いの卵はケージ飼いの卵と比べるとまだまだ割高で、数も少ないのが現状です。経済的に、継続的に買うのが難しくて罪悪感がつきまとうという方もいらっしゃると思います。私自身、そのような経験が過去にも現在にもあります。
イギリスに住んでいた頃も、最初は平飼いの卵はとても高価で、手が出せませんでした。けれど、いつの間にか価格が下がっていき、気がつけば自然に「どの平飼いの卵を買おうかな? 」と選べるくらいスーパーの卵売り場には平飼いの卵ばかりが並ぶようになっていました。
今の日本ではまだ、平飼いの卵は“特別な選択”ですが、将来的にはイギリスのように「卵を買えば平飼いが当たり前」という社会になっていけば良いなと思います。動物の権利を守る飼育方法が、「選択」するものではなく、「義務」となるシステムを作ることは、私たち人間が人間らしく生きる権利を持ち、それが守られるべきだという想いと同じだと改めて強く感じた講座でした。

お店で使用している長野県産の平飼いの卵
「もう少し伝えてみよう」 自分基準のエシカル
講座受講後の変化は、「もう少し、自分の想いをちゃんと伝えてみよう」というものでした。私はお店で環境に配慮した取り組みをしていることを、「偽善っぽく思われるかも」「伝えることで嫌われるかも」と、誰かの反応が気になって、自分が大切にしている“エシカル”という価値観を公にすることに戸惑いがありました。
でも、その恐怖は自分が自分で作り出していただけであり、重要なのは自分の中にエシカルの軸を作っていくことだと気づきました。例えば、お店でプラを使わないように心がけていましたが、それで自分が苦しくなってしまったら意味がありません。
講座受講期間中、J リーグ執行役員のサステナビリティ領域担当(元パタゴニア日本支社長)の辻井隆行さんに相談すると、「プラが悪いわけではなくて、その時の目的や状況によっては、プラの方が機能的で良いこともある。使わない方法があるならそれで良いけど、大切なのは全体を見ること」と仰ってくださいました。その言葉に、凄く納得して、気持ちが少し軽くなったのを覚えています。
エシカルには正解やルールがあるわけではありません。「プラじゃないものを選ばなくちゃ」ではなくて、「プラじゃなくても良い方法があるなら、そっちを選びたい」、それが今の私の考えです。例えば素材選びにしても、卵は平飼いのもの、米粉は産地が分かる国産の有機のもの、なるべく農薬を使っていない果物や野菜、チョコレートは少し高くてもフェアトレードのものが良い。そういう想いは講座を受けた後も、変わることはありませんでした。
「やらなきゃいけないから」ではなく、「やりたいから」選んでいる。「エシカルであるべき」ではなく、「心から良いと思うものを自分の軸で選ぶ」。そう確信できたからこそ、そんな“自分基準のエシカル”を大切にしていきたいと思うようになりました。心地よく、自分らしく続けられることこそ、きっと周りにも良い影響を与えるのだと思います。だからこそ、これからは自分のスタンスを、胸を張って発信していくと決めました。(*ブログで紹介しているエシカルな取り組み)

紙包装でラッピングし缶BOXに詰められたブラウニー
「入口はケーキ、出口はエシカル」 新しい挑戦へ
ケーキは、牛乳や卵のような日用品ではないので、量産が前提のスタイルに個人店が無理に合わせようとすると、どうしてもロスが出てしまいます。それがゆえに、これまで「従来のケーキ屋の在り方」が、私自身の意向に本当に沿っているのか迷うことが何度もありました。そこで少し前から完全予約制にして「誰かのために作るケーキ」を届けていくことにしました。必要な分だけ丁寧に作って、無駄にしないスタイルに共感してくれる方々のおかげで、予約制も少しずつ定着してきました。
私は大切な素材を使ってケーキを“作る責任”があります。そして、エシカル・コンシェルジュ講座を受講した今、“伝える責任”も新たに生まれたと感じています。さらに、「私のようなお店がもっと増えてほしい」という願いも少しずつ形にしていくタイミングが来たと感じており、2025年から米粉スイーツの作り方や、エシカルなお店の立ち上げ方を学べる「アカデミー」を始めます。
私はイギリスで長く暮らしていたからこそ、日本の田園風景や“お米”に対する親近感や敬意が強くあります。炊く用途だけでなく、お菓子作りにも広がる米粉の可能性は、これからもっと需要が伸びていくと思っています。日本の気候と日本人の身体に合っていて、昔から大切に育てられてきたお米の価値を、もっと多くの人に知ってもらいたいです。
アカデミーの受講生が、地元の農家さんとタッグを組んで、その土地の米粉を使ったケーキ屋を開く。そんな流れが、全国に広がったら素敵だなと思います。また、ケーキ屋で「プラ包装なし、お客さんがマイ容器を持参、その地域の野菜、果物、平飼い卵を使用、生ゴミは堆肥にして土に還す」そんな循環が、20年後には“当たり前”になっている社会を目指して、“人を育てること”に取り組んでいきます。
そして、お店に訪れたお客様が、美味しいケーキをきっかけに、動物福祉やゴミ問題、フードロス、地球温暖化、フェアトレードなど、様々な問題に触れるきっかけになったら嬉しいです。これからは、「入口はケーキ、出口はエシカル」をテーマにお店を続けていきます。
お店作りに興味のある方や、どんな想いでこのお店ができているのか気になる方がいれば、ぜひ見学に来てください。HPやインスタにも、お店の情報や取り組みをたくさん載せていく予定なので、ぜひ参考にしていただけたら嬉しいです。エシカル・コンシェルジュ講座を受けたことで、自分の役割がより明確に強くなりました。一度きりの人生、自分がやりたいことを、思いっきりやってみたいと思います。

文:大信田千尋(一般社団法人エシカル協会)
2025/6/5