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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】
#12 フェアトレードタウン世田谷推進委員会を
仲間と立ち上げ活動している
\ 見城佐知子さん /

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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。

第12回目は、1・2・7期修了生の見城佐知子さんです。講座を受講後、コットン栽培やフェアトレードタウン推進、エディブルスクールヤード、障害者の方の居場所作り、アート活動など、フリーランスで様々な活動やお手伝いをされている見城さん。その中で感じた想いや辿り着いた想いをお伺いしました。

::Profile ::

photo by 鳥谷部有子

見城佐知子
多摩美建築科を卒業し設計事務所で働く。現在はフリーランスとして様々な活動に参加。ボディワーカーでセラピストでもある。2011年東日本大震災を機に暮らしを見直す。「手を動かし、心で感じる」をテーマにしているRoll House for LIFEを主宰。2016年の熊本地震、2017年エシカル・コンシェルジュ講座を受講したのをきっかけにWA cottonを立ち上げ、和綿の種を繋ぎながら綿を栽培、収穫した綿を使ってのワークショップを行う。2019年フェアトレードタウン世田谷推進委員会を仲間と立ち上げ活動を始め現在に至る。私たちは地球に生かされていて、全てのものは繋がっているという感覚のもと、活動している。
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おすすめエシカル
【靴たち】
エシカルファッションというものが、まだそれほど種類のなかった当時、選択肢はフェアトレードかアウトドアのブランドに限られ、靴となるとまた凄く選択肢が狭まっていました。そんな中見つけたのがVEJAのスニーカー。見ただけでは分からない商品のこだわりに感激して即購入したのを覚えています。そして、Öffen(オッフェン)のシューズは履いていると本当によく声をかけられます。ファンであり、オススメブランドの一つです。

左&中下:Öffen
右&中上:VEJA

【福祉作業所の作品や商品】
福祉作業所の商品や作品はちょっとしたプレゼントによく選んでいます。亡き母が養護学校(特別支援学校)の教員だったことから、私にとって障害を持っている方はごくごく身近な存在でした。気づけば、退職した父も福祉作業所で陶芸を教えていました。

左:出店をお願いしていたイベントが中止となったため個人的に福祉工房詰合せboxを作って販売した時のもの。ドライ野菜、焼き菓子、コーヒー
右:アート仲間が働いている就労施設の展示会でゲットした作品。どれも個性が活きていて素敵なものばかり

エシカル・コンシェルジュ講座を受講するまで

私は美術大学の建築科を卒業後、設計事務所で働いていました。妊娠を機に仕事を辞めて専業主婦になり、子どもと一緒にヨガができたらと勉強を始めた年、2011年に東日本大震災が起こりました。当時生後5ヶ月の娘がいたことで、今まで気にしていなかったことが色々気になり出し、食やオーガニックを身近なものとして考えるようになりました。暮らしを色々と見直したのはこの頃からです。

その後、ヨガのインストラクターをしながら、2016年の熊本地震の際には支援に行くなど、自ら現地に行って、見て、感じたものを伝えることに重きを置いてきました。その中で、普段は見えない部分や世界の裏側を知ることに関心が向き始めていたのだと思います。

2017年、フェアトレードという言葉が気になり出した頃、「フェアトレード・コンシェルジュ講座」が「エシカル・コンシェルジュ講座」に切り替わったという投稿を、知り合いがシェアしているのを見て知りました。エシカルという言葉が何を意味しているのか全く知りませんでしたが、お話を聞いてみたいと思い、受講することにしました。

1期は、各回2名の講師の方からそれぞれのお話を聞いた後、対談するような形式の内容でした。中でも気になっていたフェアトレードがテーマの回はとても印象に残っています。そこで逗子フェアトレードタウンの会理事の森田恵さんとフェアトレードフォーラムジャパンの代表理事だった胤森なおこさんのお話を聞いて初めて「フェアトレードタウン」という存在を知りました。

そして、その講座の最後に感想をシェアする場で、「私が住んでいる世田谷を”フェアトレードタウン”にしたいです」と宣言。そこから私を取り巻く世界は色々と変わっていきました。

コットン栽培「WA cotton」と「フェアトレードタウン世田谷推進委員会」の立ち上げ


講座を受講後、震災後通い続けていた熊本の耕作放棄地で何かできないかと考え、「WA cotton」を立ち上げました。布好きだったことや、講座で知ったオーガニックコットンの学びもあり、コットンの栽培を通して“自分と他者との繋がり”や“母なる大地との繋がり”を感じる場作りをしたいと考えたからです。

熊本、神奈川(葉山)、東京(世田谷)、新潟など様々な場所でコットン栽培をスタートし、挑戦と失敗を繰り返しながら、現在も年に1回ワークショップを行なっています。ワークショップでは和綿の種を繋ぎながら綿を栽培したり、コマみたいな糸紡ぎの道具のスピンドルを作ったりしています。最終的に収穫した綿を使って何かしらのものに変えていくところまでできたら良いなと思っています。

左:コットン栽培の様子
右:ワークショップで作ったスピンドル


また、フェアトレード推進の活動を既にしている人たちと出会い、2019年に仲間たちと「フェアトレードタウン世田谷推進委員会(以下FTTS)」を立ち上げました。FTTSでは、講師の方を呼んでお話をしてもらったり、仲間たちと勉強会を開催したり、定期的なMTGをして世田谷の未来について話したりなどしています。

その他にも、世田谷区の消費生活課と組んで、東京都で推進している“エシカル消費”をどうやって広めていくべきか考えるお手伝いをしたり、経済産業部の「世田谷区地域経済の持続可能な発展を目指す会議」に世田谷区消費者団体の所属の委員として会議に参加させていただきました。

会議を重ねた結果、2023年に改訂された「世田谷区地域経済の持続可能な発展条例」には“エシカル消費の推進”についても盛り込まれました。

FTTS主催イベント「世田谷おいしいもの巡り」


FTTSでは、イギリスのロンドンや、ブラジルのリオなどのオリンピック会場の都市がフェアトレードタウンに認定された流れがあることから、「東京2020オリンピック・パラリンピック」を目指して色々なイベントも企画していました。でも、2020年コロナ禍に突入し、イベントは中止せざる終えない事態に。

唯一、コロナ禍中にも実施したのが「世田谷おいしいもの巡り」という、飲食店にフェアトレード商品を使ってメニューを提供してもらうというイベントでした。毎年5月第2土曜日の“世界フェアトレード・デー”に合わせてスタートし、約1ヶ月間、フェアトレード月間として継続的に開催しています。

依頼したのは、普段からフェアトレード商品を使用しているお店を含め、何となくオーガニック商品を使っていそうな親和性の高いお店が中心です。全部のお店に直接出向き、説明して回りました。開催時期がGW明けなので、忙しい時期にメニューを一から考えてもらうことはかなりハードルが高く、協力的なお店もあれば、メニューを考える時間がないと断られることも多かったです。

でも中には、忙しいし大変だけど、楽しいからやりたいと快く引き受けて、毎年新しいメニューを考えてくれるお店もありました。1回目は10店舗からスタート。2回目からは店舗数を増やしたいこともあり、メニューはコーヒーだけでもOKにするなど、参加の意思を優先しました。5回目となる今年は27店舗ものお店にご協力いただきました。

抽選でフェアトレードスペシャルBOXが当たるシールラリーの台紙。参加店舗でシールを2枚集めてアンケートに答えると応募ができる

日常のちょっとしたコミュニケーションの中でじわじわと継続してできるのが一番


イベント自体の反応は正直地味です。でも毎年取っているアンケートを見ると、フェアトレードについて「知らなかった」「知っていたけどこういう活動は知らなかった」など、色々な声が聞けたり、少しずつですがフェアトレードの認知が広がっていると実感できたりするので、やることには意味があると感じられます。

それに、やってみると意外と知らなかっただけで、実はいつもフェアトレードやオーガニックのものを使っているというお店も結構ありました。そのような店舗は、あえて意識して商品を選んでいないので、わざわざフェアトレードやオーガニックを謳っていません。

日常で、好きで通っているけど意外と心から選びたいものがないというお店にこそ、思い切ってどんな商品を使っているか声をかけてみると良いかもしれません。そこからまた次のステップの話ができるかもしれないし、日頃のお付き合いの中で、こういう話が気軽にできて、自分が好きなお店がエシカルを取り入れてくれたら嬉しいですよね。

もちろん全部が変わっていってくれることを目指したいですが、大きいことをやろうと思うとパワーをたくさん使いますし、疲弊して結局そこで終わってしまうこともあります。日常のちょっとしたコミュニケーションの中で、時間はかかるけどじわじわと継続してできるのが一番良いのかなと最近は思ったりします。

FTTSのメンバーも、想いはあるけど本業ではないので、思うように動ききれないという部分も正直あって、何年も悩み続けながら活動してきました。でも、やっぱり無理してやるのは違うと思うので、今はフェアトレードタウンの認定を取ることに一生懸命になることはやめて、無理なくできる範囲で活動していこうと話しています。

持続可能な生き方のための菜園教育「エディブル・エデュケーション」


2020年、コロナ禍に突入したことで、それまで主軸としていたヨガのインストラクターから少しずつ離れました。気づけば子育て支援や様々な環境にいる子どもたちとの関わりに比重を置きつつ、心と身体は繋がっていることに意識を向けったボディワークを続けながら、様々な活動をしています。

2018年にエシカル協会主催の「エシカルフェスタ」のゲストにエディブル・スクールヤード・ジャパン(以下ESYJ)代表の堀口博子さんがいらっしゃっており、ご挨拶させていただいたことがきっかけで、2019年1月からESYJのお手伝いも時々させてもらっています。

エディブル・スクールヤードはアメリカのカリフォルニア州バークレー市にある地元オーガニックレストラン『シェ・パニース』のオーナーシェフのアリス・ウォータース氏によって創設された団体です。

ESYJでは、学校内にある菜園(またはそれに代わる菜園)で、子どもたちが種を蒔き、野菜を育て、収穫し、それを食すという体験をします。食を真ん中に必修科目に取り込みながら育てて食べる体験型学習です。

私は、多摩市にある日本で最初のエディブル・スクールと言われている愛和小学校や茅場町の屋上にあるEdible Kayabaenで行われる活動でのグループティーチャーを務めたり、独自のプログラムに参加したり、色々なパターンで関わっています。活動する中で、毎回得るものが多く、関われることにとても感謝しています。

左:阪本小学校のエディブル授業のタイトル
右:種まきに使う手作りスケール

左:種を分けているところ
右:種まきしているところ

まぜこぜでいれる世界 やれる人もいるし、やれない人もいるし、人それぞれで良い!


その他の活動としては、病気や障がいを持つお子さんとその家族が、同じ地域の人とともに、居心地がよくてご機嫌な日々を創っていくためのお手伝いをする活動に立ち上げから5年関わりました。現在は中心メンバーからは抜けていますが、「色々な人が混ぜこぜでいれる世界があることを知ってもらいたいな」という想いは変わらず、タイミングが合えばサポートに入っています。

エシカルは線引きがないので、言葉自体は曖昧で捉えきれない部分もあるような気がしています。障害を持っている方たちとの関わりでも、何を持ってどこまでをエシカルと捉えるのかは難しいですが、誰かが生きにくさを感じる社会ではなく、必要な人には必要なサポートが届き、認め合えるようにすることはエシカルに通じるような気がしています。

久しぶりにサポートで入った砧公園でのアート活動の様子。約2年ぶりに一緒にアートの時間を過ごしたK君はビックリするくらい受容力がアップしていました


このように色々と活動はしていますが、未だに自信が持てない部分がいっぱいあって、「エシカル・コンシェルジュと名乗っている割には……」と、モヤモヤすることがあります。

一方で、何か活動をして大きなことをやらなければ認めてもらえない、と思い込んでいた時期もありますが、「そういう風にやれる人もいるし、やれない人もいるし、人それぞれで良いじゃん! 」と思えるようになりました。

「フェアトレードタウンにしたいです! 」と宣言した頃のような熱量も大事だし、会社や団体を作って大きく広げていくことも必要です。でも、やりたくてもやれない人もいるし、大きな一歩を絶対踏み出さなくてはいけないわけではないのでは? と思っています。

どうしても大きい活動をしている人が取り上げられることが多いので、他者と比べてしまうこともありますが、活動している中で思うのは、一人ひとり何かが変わっていくだけでも、事細かに自分自身の中で向き合っていくだけでも良いということです。

実はエシカルは、日本に昔からある「おたがいさま」や「おかげさま」などと同じで、凄くスペシャルな言葉ではないと思っています。将来的にはエシカルという言葉に頼らずとも活動できて、あえて使わなくてもいられる社会になったら良いなと考えています。

文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2024/8/31

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