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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】

#11 みんなの夢をみんなで叶える

エシカルデザイナー

\ 植木美穂さん /

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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。

第11回目は、13期修了生の植木美穂さんです。エシカルがまだあまり通じなかった2015年からエシカル専門のデザイナーとして活動している植木さん。フェアトレードやエシカルを広めるために、時代の変化と共に歩んできた貴重なお話を伺いました。

::Profile ::

植木美穂
エシカルデザイナー。エシカル専門のコミュニケーションデザイナーとして2015年より活動開始、フリーランス。会社やお店や個人の方の「届けたい」を、ビジュアル化や広報ツールの制作、文章執筆、コンセプト構築、ブランディングなどで全力サポート。前職は認定NPO法人ACE ソーシャルビジネス推進事業チーフ。「エシカルな未来を、より早く、より豊かに、みんなと。」が今の夢。音楽とカフェとおいしいものが好き。
> websiteInstagramnoteX

おすすめエシカル
【音楽とエシカル】
エシカルと好きなものの組み合わせって、最強だと思っていて。わたしは音楽が大好きで、エシカルマインドやデザインへの影響を日々受けとっています。中でもap bank fes日比谷音楽祭は、「これから先の、素敵な未来」のエッセンスがぎゅうっと込められていて、そこにいるだけで五感から大切なものを感じとれるので、とってもおすすめ。心からリスペクトしている、大好きな音楽フェスです。

左:ap bank fes ’23 の会場へ向かう道。やさしさとわくわくで満たされる
右:日比谷音楽祭 2023 にて。フリーでボーダレスな音楽祭、デザインもかわいい

【ローカルとエシカル】
ローカルライフを楽しんでいます。はじまりは、コロナ禍で移動できずに「仕方なく」。お散歩してみると、カフェ、お花屋さん、本屋さん、公園、お茶屋さん、自転車屋さん…とお気に入りの場所はどんどん増えて、気づけばわたしの街は「大好き」にあふれていました。CO2を抑えつつ、街のお店も応援しながら、日々豊かさを感じられるローカルライフがお気に入りです。

左:お気に入りのカフェでほっとひと息。店主さんとの会話も楽しい
右:街のかわいいお花屋さん。楽しみ方やお手入れ方法も教えてくれる

エシカルとの出会い


私がエシカルなことに最初に興味を持ったのは、小学生の時にニュースの映像で流れた、海外の市街戦の様子を見た時のことです。こんな世界がまだあるのかと衝撃を受けました。

日本はものに溢れているのに、海外には着る服や食べるものがなくて支援を受けている人がいることを知り、「余っている場所があるのにどうして分けられないのだろう? なんでこんなに違う世界があるのだろう?」という疑問をずっと抱いていました。

高校生の時に、世の中の平和をつくる仕事に就きたいと思い、一番関心を惹かれたのが国際協力でした。フワッとした疑問が職業や人生に繋がった最初のタイミングだと思います。

大学は、まず視野を広げようと、政治や経済など世の中を広く学べる社会学部を選びました。平和な社会をつくるためにはどんなアプローチをしていけば良いのか悩んでいましたが、大学2年生の授業で「フェアトレード」という概念に出会い、ピンと来るものがありました。

私たちの暮らしがいわゆる途上国の貧困と無関係ではない、と知った時はとてもショックでした。でもそれと同時に、フェアトレードのようなお互いを大切にしあえる仕組みを世界のスタンダードに出来たらすごく良いな、と希望を抱きました。

その後、色々な情報収集をする中で、たまたまインターンを募集していた世界の児童労働をなくすために活動する認定NPO法人「ACE(エース)」に出会い、CSRプロジェクトに参加します。ACEが大切にしている「仕組み自体を変える」という部分が、自分も大事にしていることと近かったので、そのまま就職を決めました。

色々な人と繋がりながら児童労働問題に向き合ったACE時代


一般的なNGOは現地プロジェクトを重視するところが多いですが、同時に日本の中からも世界の児童労働が生まれてしまう仕組みを変えていく、その両輪をやっているのがACEの特徴です。私は日本事業の担当で、主にソーシャルビジネス推進と、ネットワークの力を活かす組織の事務局をしていました。

ACEだけではなく、他のNGOや学生、専門家、行政、労働組合、企業など、本当に色々な方々と繋がり合いながら、どうやって児童労働の問題を解決していけるか、児童労働の存在やできるアクションを伝えていけるかを一緒に考え、さまざまなプロジェクトを実施してきました。

大きな仕事としては、毎年6月の「児童労働反対世界デー」に実施している“世界には児童労働という問題があり、問題を解決するために私たちにもできることがある”と知ってもらうためのキャンペーンやイベントの取りまとめなどです。

国際労働機関(ILO)が世界的に展開する「Red Card to Child Labour Campaign(児童労働にレッドカードを)」に賛同し、レッドカードを掲げ、児童労働に反対する意思を表明する「レッドカードアクション」の実施を日本で呼びかける企画を、立ち上げたりもしました。

サッカーJリーグ「柏レイソル」が、2014年のファン感謝デーにレッドカードアクションを実施してくれた時の圧巻の光景は、今でも忘れられません。

また、2014年にジーンズブランド「Lee(リー・ジャパン)」とACEで共催した「エシカルファッションカレッジ」も、とても心に残っています。エシカルファッションを様々な切り口から学んで体験できるイベントで、多くの企業や団体の方と企画しました。

1日で1,000人もの人を動員し、当時としては驚きの参加者数に、見えていないだけで実は関心がある人は想像以上にいるのかもしれない、ということを実感しました。

ストップ!児童労働 2012年のイベントで / © Takehisa Goto

エシカルを広める上で重要なデザインの力


2015年にエシカルやフェアトレードをもっと広めていきたいという気持ちが強くなり、インターンを含めて約8年間働いたACEを退職しました。次のステップを探りながら過ごしていた時、偶然が重なり、鹿児島県の再生可能エネルギーの会社ロゴと会社案内をつくることになります。それを凄く喜んでもらえたのが、デザインを始めたきっかけです。

また、ACE時代にとても良い商品なのに、デザインによって伝わらないもどかしさを感じた経験があります。エシカルを広める上でデザインの力が重要だと感じたことも、自分でデザインをやってみようと思ったきっかけの一つでした。

元々伝えることや広めることは好きでしたが、デザインの技術があったわけではないので、デザイン学校に通って一から学びました。

今までの経験があるからこそできるデザインがあるという想いから、「エシカルデザイナー」と肩書きを名付け、エシカルな事業を展開する会社や団体、個人の方のコミュニケーションサポーターとして、グラフィックや広報物などのデザインや、ブランディング提案などをしてきました。

私が得意としているのは、相手の熱い想いをじっくり伺って、コンセプトワークを行い、形にしていくことです。相手が求めているものを汲み取って表現できた時、それを喜んでいただけた時はとっても嬉しいですし、デザイナーとして大きな喜びを感じます。

色々なデザインをしてきましたが、特に小水力発電の普及を目指す「みずいろ電力」の仕事は、会社ロゴや会社案内などの他に、会社名も考えさせてもらい、とても思い出深いです。


みずいろ電力の会社ロゴ

発電所建屋の看板をデザイン

発電所の案内看板


フェアトレード専門ブランド 「ピープルツリー」では、マーケティングデザインを6年程していました。素敵なイラストや写真などの素材を豊富にお持ちだったので、それらを活かしていかに商品やブランドの魅力を伝えられるかを常に心がけていました。

店頭POPやポスターやDMハガキなどを、ブランドが伝えたい大事な部分を届けられるようにデザインしたり、ロゴを考えたり、タグを作ったり。その他にも、オーガニックコットンについての情報を分かりやすくまとめたリーフレットや、ブックカバーに再利用できる会社封筒など、様々なデザインをさせてもらいました。

本当にありがたいことにご縁に恵まれて、これまで基本的にエシカル専門でやってこられたことは、振り返るととても感慨深いです。

ブックカバーに再利用できる会社封筒 / イラスト:クリス・ホートン さん

左:オーガニックコットンについての情報を分かりやすくまとめたリーフレット
右:「スローペーパー」という名前とロゴをデザイン

自由が丘店20周年のノベルティのエコバッグのデザイン / 店舗イラスト:ピープルツリー所有

エシカル・コンシェルジュ講座を受講したきっかけ


私は2010年に「第1回 フェアトレード・コンシェルジュ講座*」を受講したことがありますが、仕事が忙しくて全て修了することができませんでした。エシカル・コンシェルジュ講座に名前が変わった後も、そのことはずっと心に引っかかっていました。

*エシカル協会代表理事の末吉がエシカル協会を立ち上げる前に主宰していた講座

エシカルデザイナーを始めた2015年は、エシカルと言ってもあまり通じませんでしたが、2024年の現在は誰に話してもかなり伝わるようになり、想像していたよりも早く世の中が大きく変化したと感じます。2015年当時の私からすれば夢のような世界です。

状況が大きく変わってきている今、これから先、エシカルな未来をつくるために何をしていくのが最良なのか考えていたタイミングで、最新情報をインプットできれば、何か良いヒントが見つかるかもしれないと思い、13期の受講を決めました。

また、色んな感覚を持った方との新しい繋がりが持てることに魅力を感じたのも、受講のきっかけの一つです。伝わるコミュニケーションをつくるには、多様な感覚を知ることが大事ですし、未来を共につくる仲間の輪を広げたい想いもありました。そうした中で、自分がどう進んでいくかを見定めたいという気持ちが強かったと思います。

一番印象に残っている講座とその理由


10講座どれも本当に魅力的でしたが、Climate Integrate 代表理事 平田仁子さんの「気候変動の今 迫る危機に何ができるのか」の回が、最も印象的でした。最近の災害の多さや異常な暑さなどに何かがおかしいと感じていましたが、自分の専門外なので確信が持てず、専門家のお話が聞きたいと思っていたからです。

受講中は、想像以上に知らないことだらけでメモが止まりませんでした。受講してみて、感じていた危機感は正しかったことが分かり、しっかり学ぶことの大事さを改めて感じましたし、気候変動に対して何となく不安、という状況から脱することができました。今の危機的状況を知った上で、自分にできることを考えられるようになったのはとても大きな変化だと思います。


また、斎藤幸平さんと砥川直大さんの講座でのお話も、よく思い出します。

斎藤さんは「アクションは同じでも、“自分一人で完結する”のと、“一人にでもよいから伝えるなど、仕組み全体を変えるというマインドを持っている”のでは、凄く大きな差がある」と仰っていて、その通りだと思いました。

エシカルやフェアトレードを長年伝え続ける中で、自分の小さな行動がどれだけの意味を持つのか、という疑問は常につきまとうものだと感じています。でも、同じ行動でも“ただする”のと、“全体感を持ってする”のは、大きく違うことを良い形で伝えられたら、こうした疑問や不安を抱く人を減らせるかもしれないし、意味があることだと思えました。

また、これまで「私はこれが良いと思う」という伝え方をしてきました。でも、砥川さんは「時代は今ここに向かっていて、あなたたちは今ここです」というような断定的な話し方をされていて、説得力と安心感が凄いと思いました。

コミュニケーションデザインをやっていく上で、インプットやアウトプットの仕方はとても大事なので、これからも心に留めておきたいポイントを惜しみなく伝授いただけ、感謝しています。

やりたいことに満ち溢れている今


受講前は、これから先は何をすればよいのかモヤモヤしていましたが、受講後の今は、やりたいことに満ち溢れています。この気持ちの変化が自分の中で一番の変化です。

また、13期の交流会がとても楽しかったので、もっと交流したいと思い、「エシカルお茶会」を提案してオンラインで定期的に主催し、講座終了後も続けています。講座に集まる仲間は様々な地域から参加しているので、地域差から学ぶことも多く、初対面でも話が止まりません。共通の話題で共感できるので、安心できるし落ち着くし、楽しくてしょうがないです。

あるお茶会で参加者のマイストーリーを伺ったら、お互いに色々なヒントがもらえたので、それぞれのマイストーリーを語り合う機会がもっとあったら良いなと感じました。一方で、思っていた以上に悩みを抱えている方が多いことも発見でした。普段から気兼ねなく発信したり相談しあったりできる場所づくりを、これからもしていきたいと考えています。

エシカルお茶会仲間と初リアルお茶会で乾杯♩/ 撮影:13期生 磯村優貴恵さん

エシカルな未来に、より早く豊かに辿り着きたい


現在チャレンジしているのは、夢やアイディアは無限に広がっていく中で、それをどう具現化していくか、ということです。オンライン発信やビジネス的なことなど、苦手なこともたくさんあるし、フリーランスやコロナ禍でひとり時間が長かったことで、人が好き、チームで動くことが好きなのだと気づけました。

今後は苦手なことは得意な人にお願いしたり、もっと周りに助けてもらったりなど協力し合いながら、楽しく継続できる環境づくりにも力を入れたいと思っています。WEBサイトもリニューアル予定です。

エシカルがまだ限られた層にしか伝わっていなかった時期は、商品やブランドの魅力をビジュアルデザインで心にどう届けるかに重きを置いて、ゆっくりと一人でも多くの人の興味関心を増やしたいという思いでした。でも、現在は素敵なアイテムもデザインもとても増えていて、その辺りは整いつつあると感じます。

 


今は「エシカルな未来に、より早く豊かに辿り着きたい」という意識に変わりました。今後はデザインの解釈を大きく広げて、「みんなの夢をみんなで叶えるエシカルデザイン」へ展開していくことが目標です。

プレーヤーが増えれば増えるほど、パワフルになればなるほど、目標に早く豊かに到達できるというイメージです。仲間やパートナーなど、チームで一緒にやった方が私自身も断然楽しいし、その方がエシカルも豊かに広がると思います。

 


「社会や未来を良くしたい」という気持ちを持つ会社や個人が確実に増えましたが、せっかく思いはあるのにどうしたら良いか分からない、という人も多いと思います。

そういう方のサポートも、やっていきたいことの一つです。コミュニケーションデザインを軸に、ブランディング、ビジュアル、言葉、コンセプト、場、仕組みなど、様々な側面から、エシカルな未来をデザインしていきたいと考えています。

また、文章を書くことも好きなので、エシカルエッセイにも挑戦中です。音楽も大好きなので、ライブグッズのエシカル化を実現したい、という夢もあります。デザインという言葉にもこだわりすぎず、好きや得意を大切に、色んなことに挑戦しながら、時代と共に自分の感覚もアップデートし続けていきたいです。

 

文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2024/7/9

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