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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】
#17 51歳からの挑戦
離島の学校からエシカルを発信したい
\ 隅田賢さん /
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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。
第17回目は、14期修了生の隅田賢さんです。沖縄県の離島“西表島”で中学の社会科教師をしながら授業で“エシカル教室”を実施している隅田さん。ある中学生が繋いでくれたエシカルとの出会いや、50歳を過ぎてから転職し、夢だった教師の道へ進まれた素敵な物語をぜひご覧ください。
::Profile ::
隅田賢
兵庫県生まれだが、沖縄県暮らしの方が長い。離島で子育てをしたくて八重山地方の竹富島に移住、20年以上観光ガイドの仕事を務めたが、離島の小規模校の魅力に取りつかれ転職を決意、現在は西表島の中学校で社会科の教師を務める。エシカルとの出会いは、竹富島在住時に、当時の中学生から末吉里花さんの話を聞いたことから。人と人の繋がりを大切にする離島こそ、エシカル発信にふさわしい場所と考えている。
おすすめエシカル
西表島の農業:西表島といえばパイナップル。輸入した化成肥料に頼らずに作る有機農法へ転換のチャレンジが若手パイナップル農家で始まっています。また、米作りも盛んな島で、品種改良されていない在来品種を残そうと無農薬栽培に取り組んだり、機械を使いなくないと水牛を使って田を耕そうとしたりしている農家の方もいます。世界自然遺産に登録された豊かな自然や農業を体感しに、ぜひ西表島へお越しください。
エシカルとの出会い 沖縄「竹富島」でのオンライン授業
私は兵庫県で生まれ、大学入学と同時に沖縄の那覇へ移住しました。大学卒業後、一旦地元に戻りましたが、沖縄の暮らしが自分には合っていると感じ、次に住むならもっと文化や伝統が残っている場所に住みたいと思い、偶然見つけたのが沖縄県の離島「竹富島」での観光ガイドの仕事でした。
初めて竹富島に訪れた時、こんな場所が世の中にあるのかとカルチャーショックの連続でした。すっかり竹富島にハマってしまった私は、竹富島で出会った妻と3人の子供と竹富島に住んで20年になります。現在は、単身赴任で2年ほど前から竹富島と同じ八重山諸島の「西表島」で中学校の社会科教員をしています。
教員になる前は、観光ガイドをしながら、竹富島の情報を発信する「通信員」をしていました。離島には新聞記者がいないので、各島に一人ずつ通信員がいます。通信員として色々なところへ取材に行く中で、学校のイベント事なども取材する機会が多々あり、その一環で、末吉里花さんを講師に招いたオンライン授業も見学させてもらいました。これがエシカルとの出会いです。
末吉さんのエシカルの授業は非常に面白くて、子供たちはもちろん、私も仕事を忘れてのめり込んでしまいました。実は、この授業を実現させたのは、末吉さんのことが大好きという当時中学生だった生徒(Nさん)です。小さい島なので皆んな顔見知りで、Nさんから末吉さんの話は度々聞かされていましたが、とうとうNさんの情熱が学校まで動かしてしまったのです。
画面越しにオーガニックコットンの服を末吉さんに見せて嬉しそうにしていたNさんの表情が忘れられません。その後もNさんはエシカルを広めるアクティビストとして活躍されています。
50歳を過ぎてから教員へ転職 ハートに火を付けてくれた中学生
竹富島の学校は小中校合わせて30人前後と小規模なので学年を超えて仲が良く、とても素晴らしい学校です。通信員をしながら取材に行く度に、「こんな学校で働けたら幸せだろうな〜」とずっと思っていました。私が若い頃は、狭き門で教員になることはできませんでしたが、元々教員免許は持っていたのです。
さすがに50歳を過ぎてからの転職は難しいと思ったのですが、ひょんなことからご縁があり、2023年の4月から念願叶って教員になることができました。小中学校合わせて全校生徒21人の西表島の学校で、毎日とても楽しく仕事をしています。
私が現在、教員をしているのも、末吉さんやNさんとの出会いなしには考えられません。末吉さんの情熱が一人の中学生を動かし、それを見ていた私が触発されて教員に転職、何と凄い縁でしょうか。私もこんな風に人に影響力を与えられるカッコ良い生き方をしたいと思ったわけです。
その後、ずっと気になっていたエシカル・コンシェルジュ講座を受講しました。実際に踏み出すまでには少し時間がかかりましたが、転職したことで、「行動に移したほうが成長できるし、何といっても楽しい! やらないよりやった方が良い! 」という考え方に変わったことが大きかったと思います。
ゴミかどうかは人間が決めている 「見えないものを見る力」の大切さ
全10回の講座はどれも刺激的で、どれが一番とは言えないのですが、お笑い芸人兼ゴミ清掃員の滝沢秀一さんの「ゴミ問題〜ゴミは捨てて終わりではない〜」の回が特に面白かったです。最終処分場の寿命のことをはじめ、全然知らないことばかりで、今までゴミを捨てた後のことまで考えたことはなかったので、たくさん反省しました。
滝沢さんの「ゴミはもう一つの自分を映す鏡」「ゴミは嘘をつかない」という表現や、ゴミを見るとゴミを出した人の生活や、その地域の特性まで分かってしまうという視点は凄いと感じました。「ゴミかどうかは人間が決めていて、人間がゴミにしている」「捨てなければゴミじゃない」と仰っていたのも凄く心に残っています。「見えないものを見る力」の大切さを教えてもらいました。
そして、竹富島に住んでいた時に、「島にはゴミという方言はない」とお年寄りから聞いたことを思い出しました。つまり、自然とともに自給自足で暮らしていた頃、無駄なものは一つもなく、全てのものに感謝しながら「ゴミという言葉が必要ない生活をしていた」ということです。現代の感覚なら「貧しい」の一言で片付けられそうですが、見方を変えると、非常に豊かな精神世界の中で暮らしていたとも言えます。これは西表島も同じです。
また、竹富島の住民は、朝起きたら、家の前の掃除をする習慣があって、真っ白な砂の道に竹箒で箒目を入れるので、足跡を付けるのがもたいないくらいとても綺麗になります。そこまで綺麗にしていると誰もゴミを落としません。汚いトイレはゴミがどんどん集まるけれど、綺麗なトイレは綺麗に使ってくれると言われるように、もしゴミが落ちていたら拾いたくなるような環境を地域の人が協力して作っています。ゴミのない本当に綺麗な素晴らしい集落です。

集落の真っ白な砂の道に竹箒で箒目を入れている様子
それから、現在住んでいる西表島では、学校の目の前のビーチ清掃を生徒たちと行なっていますが、ペットボトルの漂着ゴミがとても多いです。講座でもお話があったように、海に流れ着くペットボトルは全て蓋付きのもので、蓋のないものは全て海底や海流に乗って太平洋ベルトへ流れてしまっていると言います。目に見えているものが全てではなく、今いる場所を片付けたからと言って終わりではないと最近は強く噛み締めています。

ビーチ清掃の様子
滝沢さんの生き方にとても共鳴して、どうぜやるなら日本一の清掃員を目指すと決意した途端に、ゴミの見え方が変わったとお話しされていたように、自分もどうせやるなら「日本一の教員」を目指したいと思います。
「エシカル教室」 なぜ社会科は暗記科目ではないのか
講座を受講後は、学校の授業でエシカルを強く意識するようになりました。生徒の中には社会科が嫌いな子が多いのですが、その理由は「暗記科目だから」です。でも社会科は暗記科目ではありません。それをエシカルの視点から教えられるのではないかと思い、授業の中で「エシカル教室」を実施しました。「なぜ社会科は暗記科目ではないのか」をテーマに、エシカルな視点で皆んなで考えるという授業です。
例えば、普段食べているチョコレートは、どこから来て、なぜこの価格で買えるのか? を、皆んなで調べました。プランテーションやアフリカの植民地などの言葉は教科書で習っているので、知識としては既に知っていますが、現実に起こっている様々な社会問題と結び付いていませんでした。それが結びついた瞬間が小さな発見となり、初めて身近に感じるようになるのかもしれません。子供たちは「児童労働」の話には凄くショックを受けていたようです。
エシカル教室をする前は半分くらいの生徒が、「社会科がなぜ暗記科目ではないか分からない」と答えましたが、授業をした後からは「言葉の裏にある目に見えないものを見て、考えていくことが社会科であり、勉強していくということ」「教科書を丸暗記するだけでは、分からなかったことが良く分かりました」といった感想が子供たちの間からたくさん出てきました。
それから、給食の残飯が驚くほど減りました。残っていたら「食べたい人いるー?」と声を掛け合いながら、フードロスの問題を意識しています。目に見えた変化を感じられ、やって良かったと思いました。
これからの時代に求められるのは、先生の言ったことをただ覚えるのではなく、自分で調べて主体的に行動できるような力です。これらを学ぶには、エシカルの視点と社会科の授業はとても相性が良いと思っています。今後も講座で学んだ内容も積極的に取り入れながら、授業をしていきたいと思います。
地域を上げて色々なエシカルな体験ができる環境
世界遺産にもなっている西表島は自然豊かな離島で、自然環境に対する意識が大変強い地域でもあります。地域のコミュニティも強く、地域の方が子供たちにとても協力的で、地域を上げて色々なエシカルな体験ができる環境があります。最近は、授業の一環で、学校で育てているアオガンピという木を原料にして一から「和紙作り」を体験しました。出来上がった和紙は最終的に子供たちの卒業証書になります。

和紙作り体験の様子
また、学校にある田んぼで子どもたち自身が農薬を使用せずにお米を育てています。タネから育てて収穫し、収穫した黒紫米は販売して活動費に充てるなど、一年を通じて体験できる稲作学習です。私は初体験で何も知りませんでしたが、稲作担当に任命され、地域の方に色々教えてもらいながら、とても楽しくお米作りをしています。体験すると、お米一粒の大切さが身をもって実感できるので、まさにエシカルを学ぶ良い活動だと思います。

お米作り体験の様子
この学校には、地域と共に自然の中で子供たちが色々なことが学べ、私が理想としていたことがたくさん詰まっています。毎日が本当に楽しいです。教室全体を通して色んな角度から色んな知識を知ることで成長させてもらいました。まだ教員2年目なので、日々研究で、課題だらけですが、自分の中でしっかりと自信を持ってできるように、もっともっと勉強して、自分自身を高めていきたいです。
足元でできるエシカルな活動をコツコツと地道に取り組みながら、この活動の先は世界にも繋がっているということを、あらゆる機会を通じて子どもたちにも伝えていきます。また、せっかく八重山に縁があって住んでいるので、失われつつある昔ながらの生活や生き方を見直して、それらを大切にしている方々と繋がりながら、地域を元気にできるような活動もしていけたらと思っています。
そして、せっかく繋がりのできたエシカル・コンシェルジュの皆さんともっと知り合って、縁を大切にエシカルの輪を広げていきたいです。
文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2025/2/1