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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】

#9 農業の楽しさを伝えたい!
因島原産の八朔を作る

\ 小嶋正太郎さん /

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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。

第9回目は、9期修了生の小嶋正太郎さんです。ライターや編集が本業の小嶋さんが、東京から広島の因島(いんのしま)へ移住し、なぜ全く興味のなかった農業をすることになったのか、農家を始めて約2年半に至るまでのお話を伺いました。

::Profile ::

小嶋正太郎
2021年6月に東京都から広島県尾道市因島へ移住。偶然の出会いから、同年10月に八朔・安政柑農園を事業継承し、「comorebi farm」を立ち上げ。元「ELEMINIST」副編集長。現在は、農業と編集業の二足の草鞋で生活をしている。
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おすすめエシカル
安政柑の成長記録:エシカルなチョコレートメーカーとしても有名な「USHIO CHOCOLATL」と一緒に商品開発を行ったチョコレート。使用しているのは、因島原産の柑橘「安政柑」です。柑橘を育てる際、栄養分を有効的に行き届かせるために、果実を間引くことがあります。そこで間引かれた安政柑は未熟なこともあり、鋭い苦味と酸味があり、食用には向いていません。畑に捨てられることがほとんどですが「どうせ捨てるならアップサイクルしてみたい」という気持ちから生まれました。

mizzen:捨てられているヨット用帆布をアップサイクルしたバッグ。ブランドの立ち上げをお手伝いした時に、実際にヨット用帆布が大量に捨てられている場所に足を運んだのですが、その量に圧倒されました。サイズはバラバラですが、大きいものは7~8m以上あります。捨てられている理由は、強風などによる破れです。修理するには、新品を購入するのと同じくらいの値段がかかるため、多くの人が捨てることを選ぶようです。セーリングには使えなくても、バッグにアップサイクルするには十分な大きさでした。

左:「安政柑の成長記録」1年を通して安政柑の成長による味の違いを楽しめます
右:「mizzen」タフでラフに使えることが特徴です

:: Profile ::

小嶋正太郎
2021年6月に東京都から広島県尾道市因島へ移住。偶然の出会いから、同年10月に八朔・安政柑農園を事業継承し、「comorebi farm」を立ち上げ。元「ELEMINIST」副編集長。現在は、農業と編集業の二足の草鞋で生活をしている。
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おすすめエシカル
安政柑の成長記録:エシカルなチョコレートメーカーとしても有名な「USHIO CHOCOLATL」と一緒に商品開発を行ったチョコレート。使用しているのは、因島原産の柑橘「安政柑」です。柑橘を育てる際、栄養分を有効的に行き届かせるために、果実を間引くことがあります。そこで間引かれた安政柑は未熟なこともあり、鋭い苦味と酸味があり、食用には向いていません。畑に捨てられることがほとんどですが「どうせ捨てるならアップサイクルしてみたい」という気持ちから生まれました。

mizzen:捨てられているヨット用帆布をアップサイクルしたバッグ。ブランドの立ち上げをお手伝いした時に、実際にヨット用帆布が大量に捨てられている場所に足を運んだのですが、その量に圧倒されました。サイズはバラバラですが、大きいものは7~8m以上あります。捨てられている理由は、強風などによる破れです。修理するには、新品を購入するのと同じくらいの値段がかかるため、多くの人が捨てることを選ぶようです。セーリングには使えなくても、バッグにアップサイクルするには十分な大きさでした。

「安政柑の成長記録」1年を通して安政柑の成長による味の違いを楽しめます

「mizzen」タフでラフに使えることが特徴です

エシカル・コンシェルジュ講座について

 

私は大学卒業後、ライフスタイルメディア「TABI LABO」の運営会社に正社員として入社し、2年後にフリーライターとして独立しました。その後、環境メディア「ELEMINIST」のフリーライターを経て、副編集長を務めます。

エシカルやサステナブルに興味を持ち始めたのは、2014年にアメリカのサンディエゴに留学していた時です。当時のサンディエゴは、多くのヒッピーが住んでいたことが理由で、オーガニック野菜が当たり前のように売っていて、ベジタリアンやヴィーガンに対応している店がたくさんありました。

その時はエシカルやサステナブルという言葉ではなかったですが、なんとなくそういう生活に魅力を感じていました。

エシカル・コンシェルジュ講座を受講したのはELEMINISTがきっかけです。講座内容は知らないことだらけでとても勉強になりました。特に印象に残っている講座があったというよりも、満遍なく全部良かったという感想に尽きます。それまで、エシカルな知識を広い範囲で得られる機会がなかったので、色々な繋がりを知れて楽しかったです。

例えば、アメリカ留学中にヴィーガンを半年間やっていたことがありますが、肉を食べない生活への単なる好奇心で実験的にやっていたので、動物や環境のことは一切考えていませんでした。講座を通して、ヴィーガンが動物だけでなく、環境や水質汚染の問題など、思ってもいない分野でも繋がっていることを知り興味深かったです。

エシカルな考え方はとても大切なことで、多くの人がやった方が良いと思っているかもしれません。どれくらいの度合いでやるかは人それぞれで良いと思います。ただ、自分の場合は「何も知らないでやらない」はあまり好きではないので、それまで知らなかった世界を知ることができて良かったです。

農業は不自然? 常に抱えている矛盾


私は2021年に東京から広島県尾道市の「因島」へ移住しました。因島を選んだのは、特に理由はなく、ビビッときたからです。移住を決めて、住む家を決めて、それから初めて因島に来ました。現在は「comorebi farm」を立ち上げて、八朔と安政柑、不知火(しらぬい)の柑橘を育てています。

農業を始めたのは、スーパーで地元産の野菜が手に入らないので自分で作ろうと思い、尾道市の農業委員会に相談に行った時に、たまたま耕作放棄地となった八朔畑を紹介してもらったことがきっかけです。

耕作放棄地となる予定だった安政柑畑


農業の経験はありませんでしたが、「この八朔畑がなくなるのはもったいない」と心の底から思ったため、就農を決意しました。それからどんどん農業にハマっていき、少しずつ規模を拡大して現在は4つ(合計約8,000平米)の畑を管理しています。

農業をやる上で、いろんな農家さんに会いに行った結果、多様性に富んだ土壌作りをしようと決めました。自分たちが本当に美味しいと思える安心で安全な柑橘を作るために、農薬や化学肥料、除草剤、防腐剤は使用していません。代わりに、植物や土壌、微生物が秘めている力を最大限に活用する方法を模索中です。

例えば、始めの頃は、信頼できる会社の農業資材や微生物資材を買っていましたが、農家を始めて2年半が経ち、微生物を自分で培養する方法を教えてもらったり、苦汁で代用できる資材があるかもしれないことが分かったり、少しずつ細かい部分をアップデートしています。

ただ、私は、農業は不自然なことだと思っています。本来そこに生えていないものを植えたり、本来循環していくものを取ったり、生態系の様子とは異なるからです。俯瞰して農業のことを考え、そのメリットとデメリットを知り、良いことはより良い方向に、悪いことは改善するようにしたいと思っています。

耕作放棄地の八朔畑

現在の八朔畑

「八朔」は因島原産の果物 兼業農家が可能な時代!


「八朔」は自然交配によってできた因島原産の果物です。気候や土壌は因島が一番適しているし、農薬や化学肥料がない時代に生まれた品種なので、農薬や化学肥料を使わなくても育てやすいと感じています。でも、儲からないという理由から耕作放棄地がどんどん増えているのが現状です。この状況を多くの人が「どうにかしなくては」と言っていますが、状況はあまり変わっていないように見えます。

私は島出身でも何でもないですが、八朔が因島からなくなってしまうということは、一つの文化がなくなってしまうようなもので、本当にもったいないと思っています。

JA(農業共同組合)の人に聞いてみたところ、八朔を育てるだけでは生活していけないとハッキリ言われました。デコポンやキヨミ、レモンなどの買取価格の高いものを色々織り込めば生活できるようですが、八朔だけでは難しいようです。

でも、農家は専業である必要はありません。専業が当たり前というイメージがありますが、島では「日曜百姓」という文化も残っていて、私が住んでいる地域の人は、今も兼業で農家をしています。昔は、平日に工場で働いて、週末に趣味で柑橘を育てて、お小遣い稼ぎをする人もいたそうです。

柑橘の農作業は、これを逃したらまずいということはありません。草刈りが一日遅れても問題ありませんし、雨が降ったら休みます。一ヶ月かけて剪定し、長い時間をかけて収穫します。だからそういう文化が残っているのかもしれません。

私も編集の仕事をリモートでしながら兼業で農業をやっています。兼業であれば生活していけますし、肉体を使う仕事と頭を使う仕事の相性はとても良いと感じています。肉体を使っている時には、頭が空くので、その時にアイデアを考え、やるべきことを整理できます。そうすると、生産性を上げることができます。

また、考える癖がついていると、農法をアップデートするアイデアが浮かびやすいですし、農業をすることで自然のリズムに順応していき、自然が色々なことを気づかせてくれたり、学ばせてくれたり、生きるのが楽だと感じます。

リモートワークが普及している今、多くの人が兼業農家になるという選択をできる時代です。専業農家の半分の面積でも、兼業でやる人が増えれば、耕作放棄地がこれ以上増えることを少しでも食い止められると考えています。

今後、comorebi farmとしては、新しく就農したい人に農法から売り方までの全部を伝えて、兼業農家を増やすことに力を注いでいく予定です。

八朔がなっている様子

農業の楽しさを多くの人に伝えていきたい


現在の私たちの販売先は主に関東です。因島では八朔は貰うものなので、全く売れません。でも、東京にイベント出店に行くととても反応が良いです。

一方で因島では、ファームツアーを開催し、収穫体験の他に、私たちがなぜ農家を始めたのか、ゼロから今に至るまでのお話しをしています。参加者の多くは、再開発で盛り上がっているお隣の生口島を目的に来た人で、関東圏に住んでいる方々です。彼らは自然や農業に興味を持っているように感じます。

今後は、生活者の人が農家から直接青果を買ったり、話を聞いたりする機会がどんどん増えたら良いなと思っています。

今の悩みは、販売量を増やすとなった時に生産は追いつきますが、取り扱ってくれるお店が増えないと、人を雇う余裕がないことです。すぐにできるものではないと思うので、時間をかけるしかないし、焦ってはいませんが、それがどこかで好転してくれると良いなと思っています。

それくらいしか悩みはないので、私にとって農業はとても楽しいものです。もちろん、辛くて心が折れそうになる時もあります。重いものを持つし、夏は暑い中で草刈りをするし、冬は寒いです。でも、楽しいが勝っています。おいしいものを作るのは、それくらい楽しいことなのです。

きっと、農業は何年やっても、何十年やっても、ずっと分からないことだらけなのだろうと感じます。それが自然を相手にするということで、楽しいと思える要素の一つかもしれません。今後はこの農業の楽しさを、少しでも多くの人に伝えていきたいです。

ファームツアーの様子

文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2024/3/30

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