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【エシカル・コンシェルジュ名鑑】
#18 沖縄・竹富島での経験を活かして
小中学生に環境問題のワークショップを行う高校生
\ 阿部凪さん /
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「エシカル・コンシェルジュ名鑑」では、日本全国・世界各国にいるエシカル・コンシェルジュを紹介します。講座を受講したきっかけや、職種、興味のある分野は人によって様々です。どんな仲間がいるのか、どんな活動をしているのかぜひ参考にしてください。
第18回目は、10・13期修了生の阿部凪さんです。第17回目の隅田さんがエシカルを知ったきっかけの一人である阿部さん。中学生で主体的にたくさんのエシカルな経験を積み、高校へ進学した現在も今の環境の中で何ができるか考え、周りへの感謝を忘れずに将来やりたいことに思いを馳せる姿にとても感銘を受けました。
::Profile ::
阿部凪
フランス・パリで生まれ育ち、小3から中学卒業までを沖縄・竹富島で過ごす。高校進学のため島を離れ、現在、国際バカロレア教育を履修する高校2年生。『はじめてのエシカル』を読んだこと、中学校の海洋教育の授業をきっかけに、海の環境問題やサンゴに興味を持ち、学校では得られない学びを竹富島での活動のアイデアに繋げたいという思いから、中学2年生のときに初めてエシカル・コンシェルジュ講座の受講を決意。
おすすめエシカル
【食】モスバーガーのソイパティシリーズ:お肉のパティの代替として大豆を原料としたソイミートを使用したハンバーガー。見た目も味も食感もお肉そのもの! 通常のハンバーガーと同じ値段で食べることができるので、学校の友達と放課後たまに食べに行きます。高校生等身大のおすすめエシカルです。
【雑貨】PlasTao KohTao:タイのタオ島で、ペットボトルのキャップを原料とした雑貨を製造、販売するブランド。ビーチクリーンを通して収集したペットボトルのキャップを色分けし、細かく砕いたものを熱で溶かしながら、型に流し込み固めることで作られています。パステルカラーの色合いやマーブル柄が特にお気に入りです。
左からボールペン、小物入れ、カメのキーホルダー
オンラインでエシカル出張授業を実現
私はフランスのパリで生まれ、小学校3年生から中学卒業までを沖縄県の離島・竹富島で過ごし、高校進学で関東へ移住しました。現在は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心・知識・思いやりに富んだ若者の育成を目的としている「国際バカロレア教育プログラム」を履修しながら、高校生活を送っています。
環境問題に興味を持ち始めたのは、竹富島で過ごしている中で、豊かな自然がだんだんとゴミで汚れていくことに気づいたからです。次第にニュースでも環境問題を見聞きすることが多くなり、島だけではなく世界全体の問題であることを意識するようになりました。
環境問題に関する色々な本を読む中で、末吉里花さんの『はじめてのエシカル』と出会ったのは、中学生になった頃です。ビビッとくるものがあり、学校の先生にも本をお薦めすると、一晩で読んできてくださり「せっかくなので出張授業に応募してみよう」と言ってくださいました。先生のその言葉に感動して、さっそく周りに働きかけ、私が中学1年の冬に末吉さんによるオンラインでの出張授業が実現しました。
学校の仲間や先生たちと一緒にエシカルについて考えたいという気持ちが強かったため、末吉さんの話を直接聞いてもらうことができて、とても嬉しかったです。授業は小学校高学年から中学生を対象に行われ、皆さん末吉さんの話に引き込まれていたように思います。
※出張授業の様子を #17の隅田さんが取材した八重山日報の記事
出張授業を通して、本を読んだだけでは分からなかった末吉さんの熱量が伝わってきて、新しい発見がたくさんありました。出張授業を受けた後、エシカル・コンシェルジュ講座を受講したいと両親に相談していたタイミングで、たまたま学生応援企画があることを知り、中学2年生の冬に10期を受講することにしました。
講座を受けたからには誰かに伝えなくては
全講座、初めて知る事実や衝撃を受けることが多く、学びがいっぱいあった中で、認定NPO法人アニマルライツセンター代表理事の岡田千尋さんの「地球を分け合う動物たちに配慮する2つの方法」の回は一番衝撃が大きかったです。動物たちが不衛生な環境の中で飼育されていること、何よりもその事実を知らずに平然と命をいただいていたことにショックを受けました。

受講中のメモノート
講座で学んだことは、毎回受講した日の夕食時に家族にシェアしていたのですが、その日はなかなか話し出すことができず、口を開いても涙が止まりませんでした。その日のご飯のお鍋に入っていたミートボールが食べられなかったことを鮮明に覚えています。
でも、このままでは何も解決できないし、せっかく講座を受けたからには誰かに伝えなくてはという思いが高まり、すぐに先生にお願いして、講座を受講した約1ヶ月後に、同級生や他の学年の中学生に向けて道徳の時間にアニマルウェルフェアの授業をさせてもらいました。
講師の岡田さんにも経緯を説明して、講座で使用していたスライドを参考にさせてもらいながら、どうやって伝えたいか、たくさん考えてプレゼンテーションの資料を準備しました。授業をしてみて難しかったのは「やっぱりお肉は食べたいし、しょうがないことだよね」と、真っ直ぐ受け取ってくれない子もいたことです。
今思えば、伝え方にも改善できる点がたくさんあり、伝えたいメッセージがダイレクトに伝わらなかったかもしれませんが、授業内容を考えたり、発表したり、事後アンケートを取ったり、このような機会をいただけて本当に勉強になりました。
エコ部結成! 一つの側面だけではなく、他の側面も見ることの大切さ
その他の受講後の考え方の変化としては、環境や社会を取り巻く問題について考える時に、色々な矛盾点に気づけるようになったことです。例えば、大豆ミートはアニマルウェルフェアの観点では良いですが、大豆を育てるためには土地が必要で、そのために森林伐採がされています。
このように、良いと言われているものでも良い部分だけはないと、隠れて見えないところまで考えられるようになったことが成長できたことだと思っています。どんなものでも良いところも悪いところもあるので、一つの側面だけではなく、他の側面も見ることの大切さや、それを総合的に見て、自分はどっちを選択したいかを選ぶことが大事だと気づきました。
また、受講後のアクションとしては、仲良しの友人と結成した自称「エコ部」で、ヘチマを育てて“グリーンカーテン”にしたり、できたヘチマを乾燥させて“ヘチマたわし”を作ったり、先生に提案して全校生徒分の竹歯ブラシを買ってもらったり、“コンポスト”を作って、使い終わった竹歯ブラシをコンポストに入れて分解されるか観察したりしました。
竹富島には焼却炉が1つしかないので、生ゴミを燃やすゴミとして処理できません。そのため生ゴミは、島に設置されているコンポストに持っていくか、庭や畑などに埋める家庭がほとんどです。学校給食の残飯も島のコンポストに持っていく仕組みなので、自前のコンポストに生ゴミを入れる必要はありませんでした。

乾燥した”へちま”で「たわし」を作っている様子
充実した海洋教育 エシカルショップを開催
私が通っていた中学校には週に1回「海洋教育」の授業がありました。海洋教育は、竹富町の学校で総合学習の一環として行われていて、「海に親しみ、海を知り、海を守り、海を活用する」の4つの視点を基本とした学習です。内容はそれぞれの学校に任されていて、生徒が主体的に授業内容を決めていました。
中学1年の冬に末吉さんの出張授業を受けた後、先生や生徒たちの間で、この海洋教育の授業をもっと一生懸命取り組んでいこうという雰囲気が加速したと感じました。それもあってか、中学3年の海洋教育の授業はとても充実していて印象に残っています。この年の海洋教育のテーマは「Let’s エシカルアクション」、1年をかけてエシカルショップの開催を目指し授業に取り組みました。
春先の遠足では、エシカルをテーマに石垣島へ出向き、自転車でスーパーマーケットや自然食品店に行って、認証ラベル付きのお菓子を買って食べたり、島の素材を使ったパンの商品開発も計画していたので、石垣島のパン屋さんに勉強したりしに行きました。
その後、竹富島の唯一のパン屋さんに協力してもらい、自分たちで採ったモズクや、近所で取れたパッションフルーツ、庭で取れたローズマリーなどを使って、6種類のパンを作りました。

開発したパン6種
秋頃には夏休み中に各自が考えてきたエシカル商品の総選挙を行い、どの商品を開発するか投票を行いました。総選挙で選ばれたのは「月桃石鹸」「小麦で作った食べられるスプーン」「ミツロウラップ」「エシカル雑誌」です。
私は「エシカル雑誌」を担当し、エコラベルの紹介や蜜蝋ラップの作り方を掲載した他、学校で行っている海洋教育の授業の様子を、中学生みんなで編集・作成しました。沖縄で昔から親しまれてきた植物の「月桃」からできた紙で表紙を作ったのもポイントです。

エシカル雑誌
そして、冬に集大成となる「エシカルショップ」を開催し、エシカル商品と開発したパンを保護者や島の方に販売しました。学校全体でエシカルの概念を理解した上で商品を作ることができ、とても楽しかったです。イベント後は、エシカルショップの売上で体験ダイビングに行くことができ、今まで頑張ってきて良かったと達成感を感じました。最高の思い出です。

体験ダイビングの様子
海洋教育をはじめ、竹富島で過ごした中学時代は、周りの大人の方が、私がやりたいことを「良いね! やろう! 」と、すぐに肯定してくれたおかげで、周りを巻き込んで色々なことを経験したいという原動力や活動へのモチベーションが上がりました。楽しく活動することができたので、とても感謝しています。
「海洋保護活動」と「環境問題についてのワークショップ」
高校生になってからは、2024年の夏に、文部科学省が展開する「トビタテ留学」という奨学金制度を使って、海をテーマにタイに留学に行きました。目的の一つは、PADIダイビングコースのアドヴァンスド・オープン・ウォーター・ダイバーのライセンスの取得すること、もう一つはそのライセンスを使って海洋保護活動を行うことです。
海洋保護活動は、海洋保護ボランティアのプログラムを提供しているエージェントのプロジェクトに参加しました。タイの小さな島でダイビングをしながら、カラーチャートをサンゴに照らし合わせ、白化の進行具合をモニタリング調査したり、魚の数や大きさ、種を記録したりしました。さらに、水中のゴミ拾いも行い、参加者全員で合わせて約10 kgのゴミを収集できました。

左:タイでダイビングをしている様子
右:サンゴの白化状態をモニタリングするためのカラーチャート
また、課外活動の一環として、クラスの仲間たちと「ぼくらの星について本気で考えてみた~環境問題についてのワークショップ~」と題して、神奈川県内の小中学校に出張授業をしています。これは生徒たちだけでどんな活動ができるか考えていた中で生まれたアイディアで、0から自分たちで企画したプロジェクトです。
これまでに、文化祭での出展、私の母校の小中学生に向けたオンラインでの発表、同級生の母校の放課後キッズクラブ、と3回の開催を実現してきました。小中学生たちの反応はとても良く、ワークショップを準備した私たち自身も楽しむことができました。どのような工夫をすれば飽きずに楽しく参加してもらえるか、メンバーと試行錯誤を重ねながら、回を重ねるごとにレベルアップできるように取り組んでいます。
事後アンケートの結果では、「環境問題に全然興味がなかったけど少し興味が出た」「環境問題解決のためにできることはないと思っていたけど、意外とできることがあると気づいた」など、気持ちの変化が分かるフィードバックをいただけて、とてもやる意義があると感じています。今年度中にさらに3回開催することが目標です。
「地域の活性化」に関わることが将来の目標
高校生になって勉強が忙しかったり、もっとやれることがあったら良いなという気持ちはあっても、なかなか思うようにいかなかったりします。でも、お世話になった方の顔が浮かんだり、今までの経験を思い出したりすると頑張ろうという気持ちになれます。
離島に長く住んでいたこともあり、将来は離島や山岳地帯など、過疎化が問題になっている地域を元気にすること、「地域の活性化」に関わることが目標です。いつかお世話になった皆さんに恩返しがしたいです。今の生活の中で「エシカル」を“凄く”意識するのは難しいですが、心のどこかにいつもあるのが「エシカル」です。今の状況の中で、どういう活動ができるか一生懸命考えて、将来やりたいことに思いを馳せています。
文:大信田千尋(一般社団法人 エシカル協会)
2025/3/5